命のナマエ

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「灰蓮っ・・・、灰蓮ってばっ!!」


はっと気づいたあたしは思わずバッと顔を上げた。

目の前には、心配そうに顔を覗き込んでいる友人の顔。少し不満げな様子だった。



「・・もう、どうしちゃったの?」


友人は何度も名前をよんだのに、私は気づかなかったらしい。
あたしは慌てて「ごめん」と謝った。

不思議なことに、さっきまで私の耳に彼女の声は聞こえなかった。



その代わりまったく別のものが聞こえた。



「考え事してただけだよ。」



少し言葉を濁して、その場をやり過ごす。

友人は納得の言ったようで、それならいいけどと言葉を返した。

ふと、先程の声を思い出してみる。
彼女には聞こえなかったのだろうか。



「ねぇ、声、聞こえなかった?」


「聞こえないけど。」


不思議そうに首をかしげている。
その様子じゃ、本当に聞こえてないのだろう。



「本当に大丈夫?」

「大丈夫、ちょっと疲れたみたい」


苦笑してごまかした。
変、だ。


あたしだけに聞こえるなんて。



「そっか、ちゃんと休んだ方が良いよ。」



彼女はそういって私を見つめる。


ああ、そうだ。
彼女の言ったとおり、ちゃんと休もう。

だいたい、人に聞こえない声が聞こえるなんて馬鹿げてる。



「心配させてごめんね、
これからは気をつけるから。」



そう言って微笑むと、彼女も満足げに微笑んだ。



「あ、○○ちゃん!」



気がつくと、学校の校門の前に来て、ひと気はいきなり多くなった。
駆け出す友人を横目にあたしは、空を眺めた。





「蒼いなぁ・・」
 



何気ない毎日。
そんな中に大切なものを探し続ける、平和で穏やかな日常。

まぶしすぎるその太陽の光にあたしは手をかざした。


予鈴のチャイムが鳴り響く


それと同時にあたしは空を仰ぐのをやめ、歩くペースをあげた。



――シャラ・・



ネックレスに通された銀色の指輪がきらりとゆれた。




この少女は偶然か必然なのか、中つ国に降りたつことになる。

しかしそんなことを信じるのは、世界の多くを知る魔法使いでさえ、数人だったという。


彼女が中つ国に来て、2年の月日が経つとき、
フロドはようやくガンダルフと再会を果たし、指輪の真実が明かされた。

そして哀れなことに、彼は中つ国の運命を背負う事になったのは言うまでも無い。

そして、彼女も同様に、運命の片割れを背負うこととなる。




そう、


全てはその一つの指輪によって


歯車はゆっくりと廻り始めたのである



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