命のナマエ

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そんな話を経て、

旅を続け、遭遇したのは灰色のガンダルフ。

いや今は白のガンダルフではあるが、

別の名で呼ぶのも今更なので、

懐かしい呼び名で、呼ぶこととした。



「――…ミスランディア。」



彼はエルフから渡された
ハレンが残した伝記に一通り目を通した。

おそらく彼はすべてを知っているようにも思えたが、
今までその全貌を語ることは控えていたのかもしれない。


読み終えた紙束を返すと、

話題はまず、ここにいないフロドとサムのことになった。


「…フロドは一人ではありません。」

「わたしたちはサムと一緒に行ったものと考えています。」


アラゴルンと私が今までの状況を説明すると、
魔法使いはホッとしたように顔をゆるめる。


「行ってくれたか!本当にそうじゃろうな?初耳じゃぞ。
だが驚きはせん。

けっこう!おおいにけっこうじゃわい!」


その様子からするに
かなり安堵しているようだ。



「ガンダルフ。そろそろ貴方がどうモリアから抜け出し、
救われたかを私たちに教えていただきたい。」


アラゴルンはこちらの話ばかりしている状況で、
耐えきれなくなり、下火を切った。



「ふむ、長い話になる。」

「そもそもバルログはどうなったのですかな?
あの瞬間、貴方はてっきり死んでしまったのかと思ったのですぞ。」


ギムリは驚きが冷めやらぬまま、
声をあげる。



「ギムリ、あれの名をいわんでくれ!」


手を横に振り、
もう聞きたくないと言わんばかりに
ガンダルフは首を横に振った。


やれやれと深いため息をついて、
彼は話し始めた。


「わしは長い長い間、落ち続けた。
そして、底に着いた。」


地の底でバルログと戦い続けた。

そしてついに勝ち、力尽きて倒れた。


もうこの世には留まれないと思えたその時、
白い光が彼を包んだという。



「では、貴方は死のふちからよみがえったのですね。」


白い魔法使いしてもう一度、
この世界のために、力を尽くすべく

引き戻されたのだという。



「いかにも。」


そう頷いたガンダルフの表情をみて、
3人は深く安堵するのだった。



ーーーーーー



「親愛なるガンダルフ。
衣の色は違えど、今でも変わらないところがおありだ。
貴方はあいかわず、謎めいたことをおっしゃる。」


「なに、とんでもない!
わしは声に出して独り言を述べたまでじゃ。老人の癖じゃよ。」


「わたしたちは貴方に旅の話をしましたし、
貴方から聞いた話で、昨夜の老人の正体も分かりました。
ですが、わたしは貴方に一番聞きたいことをすっかり話してもらえていません。」


「レゴラスよ、
ハレンのことなら昨夜わしと出会うた。」


「…では貴方はなぜ、その話を最後まで黙っておられるのです?
なにか、特別なわけでも?彼女は危険にさらされている。」


「危険か?それは、ハレンだけではなく、
皆それぞれの危険に侵されている。

この森も同様にな。

彼女はわしに聞いた。ホビットの姿を見かけたかと。
わしは答えた、エントのところに居るだろうとな。

彼女はひとりで追いかけるといって、去っていった。

…それだけじゃ。」


「一人で?…危険だと分かっているなら、
何故、貴方は彼女といてくださらなかったのですか?」


「ふむ、レゴラス君は少々目を曇らせとるな。
おぬしらしくもない。
わしが止めて何になるというのじゃ。

彼女は彼女の果たすべき役目があり、
わしとて同じように別の役目がある。

それを互いに阻むことはできぬのじゃよ。」



「ですがっ!!
彼女は…瀕死のボロミアを救ったとき、癒しの力を使った。

貴方になら、この意味がお分かりでしょう?

あの娘は、ハレンは――長くはないのです。
もしかしたら、このまま力を使えば、

死んでしまうかもしれないっ!!!」



「そうじゃよ、レゴラス。
聖なる使者はそのために転生してきたのだから。」


「いわば、使者たちが願った終わりが近づいている。
魂のともし火はもうすぐ途絶え

…悪しき力も、大きすぎる力も同時に消えうせるのじゃ。

だから、彼女も運命を共にすることを選ぶしかなかった。
悲しき定めの中で生きねばならなかった哀れな娘なのじゃ。

全ては決まっておったことじゃよ

――最後の使者は死すと。」



「嘘だろ…。おい、レゴラス。
ハレンが死んでしまうだと?

嘘だと言っとくれ!!」


「ギムリ…。」


「強すぎる力とは、もとより代償がある。
ハレンは目の前で苦しむものを放っておけるほど、冷酷ではない。

仲間思いのいい子じゃ。
だからこそわしはこの旅に参加することに許可した。

彼女なら仲間のためを思い、強くもなるだろうし、
つらい旅に耐え抜ける精神力も兼ね備えているだろうとな。

さすれば、彼女は今を生き抜くための言い訳ができると。
あの頃はなによりも欠けていた生命力を維持するには、
本人の気持ちを呼び起こすしかなかった。

――“この世界で生きたい”

そう思わせるような何かがなければ、
彼女はその身を現世に留めておくにも厳しい状態じゃった。」



「貴方はすべて分かっていたのですか?
ハレンに出会ったころから

…あの子の運命はたやすく脆いことも。

前世の使者についても、貴方はあらかじめ知っていたのでしょう。

――ミスランディア。
なぜハレンにすらそれらを話すことなく、
口を閉ざし続けていたのですか?」



「…わしはハレンだけではなく、
かつて使者だった多くの者に出会った。

それこそ、イシルと共に、わしは長らく
魂の転生を追っていたのじゃ。」


「時は、中つ国が生まれる前にさかのぼる。」
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