命のナマエ

□(31)
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青い蝶が舞い上がった、

それは不思議な光景で、

まるで夢を見ているかのようだった。



俺は動揺した、


ーー君は何者で、


この力は何なのだと…。


彼女が話し出した真実に、俺は打ち砕かれる。



過去の凄惨な記憶。


閉じ込められ、逃げ出せず、


ーーそして、今も闇に囚われもがいている事を。



31 Thanks-感謝-



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ハレンと別れたあと、
俺はひとり来た道を戻って、仲間のもとへと走った。


「アラゴルン!」


「ボロミアか。」


アラゴルンは他の仲間とは、
離れた場所に立ち尽くしていた。


話し合いはとうに終わっているようだ。



「フロドを見かけなかったか?

ハレンもまだ帰ってきていない。

ちょうどレゴラスが探しに出ているが、もし姿を見ているならーー…」



「すまないっ、俺のせいだ!」


アラゴルンが懇願してくるその声を、
俺はさえぎって頭を下げた。



「何かあったのか?」


顔を伏せている俺に近づいて、
驚いた顔で問いかけるアラゴルン。



「フロドを見かけた、1時間も前だ。」



「1時間だと!?

それならすぐにでも、探しに…っ。」



「いや、その前に話を聞いてくれ。」



目を見開いてすぐさま踵を返そうとするアラゴルンだったが、
その肩を掴んで俺は引き止める。


ただならぬ事情があると察してくれた
アラゴルンはその場に立ち尽くして黙り込んだ。



「俺はフロドと話をしたんだ。

気休めになればと思った。

はじめはそのつもりで声をかけたのに、
故郷のことを思い出すと、冷静でいられなくなった。

そして、あの指輪を…。」




俺は意を決して、顔をあげる。

アラゴルンは真剣な瞳でこちらを見ていた。




「―ー奪い取ろうとしてしまった。」



沈黙が包み込んだ。

アラゴルンは何も言わない。



(一体、何を思っているのだろう?)



不安が過ぎった。

こんな俺だ。罵られても仕方ないと思う。


この後、仲間に責められても、
反論出来るはずもない。



だが、このあとのアラゴルンの対応は、
俺の予想とは正反対だった。



「そうか、よく話してくれた。」


「…責めないのか?」



アラゴルンは怒るそぶりを一切みせずに、
少しだけ困ったような顔を浮かべて頷いた。



「私はたった今、
ボロミアから報告を受けただけだ。


1時間前に、フロドを見かけたとな。」



つまり、彼は事情を知っても、
それを表に出すことは無い…自分の心だけで留めておくと言っているのだ。




「アラゴルン…。」



安心したのもつかの間で、
同時に、気を遣わせてしまったと罪悪感が募った。


責められた方が楽だという身勝手な感情は、
自分の中を占めており、内心は複雑だった。




「そうなると、
急いでフロドを探さねば。

…遠くに行ってないといいが。」



だが今は、そんな気持ちの折り合いより、
先にやらなければならない事がある。

アラゴルンの言葉でハッとした俺は、
ハレンの言葉を思い出していた。




「ハレンがフロドを追いかけている。
フロドの居場所を知っていると言っていた。」



そういえば、
彼女はもうフロドに会えたのだろうか。




「ハレンが?」



当然、アラゴルンも驚いていた。



「ああ、彼女は俺を止めてくれたんだ。」



彼女には感謝したい気持ちでいっぱいだった。

おそらくあの時励まされてなかったら、
アラゴルンにさえ、事の有様を打ち明けられなかったに違いない。



「どうしたんです、馳夫さん。」


「メリー、ピピン。」



話に区切りがついた所で、
メリーとピピンがこちらに近づいてきた。



「ボロミアがフロドとハレンを見かけたが、すぐに見失ったらしい。

これから私たちは、探しに向かう。」



「え、それはいつの事ですか?」


「1時間前だ。」


アラゴルンがそう言うと、
メリーとピピンの顔は急激に青ざめていくのだった。



「1時間ですって!?大変だ。」

「すぐに見つけなきゃ。」

「サムッ!フロドをすぐ探しに行こう。」



二人はサムを呼んで、慌てて駆け出していく。

何事かと出てきたサムは引っ張られながら、走り去っていった。



「おい、待て。せめて2人一組で、」



アラゴルンが必死に止めようとする。




「待てっ!とまるんだっ!

ーーサムッ!メリー!ピピンっ!!」



けれど、制止の声を聞かずに、
ホビットたちは瞬く間に森の中に消えてしまった。



「…すまない。俺がフロドに迫ったから。」


「いや、今のはホビットが悪い。」



アラゴルンは苦い顔をして、
彼らが走り去っていった方向を見つめた。



「どうした、アラゴルン。
騒がしかったが。小さい人は…?」



その場に現れたのはギムリだった。


俺の存在に気づいて目が合った後、
ホビットをきょろきょろ探している。



「ホビットは皆、フロドを探しに飛び出していった。

危険だ。
近くにオークもいるかもしれないのに。

彼らを放ってはおけない。」



「なんだと、こうしちゃおれんっ!!」



飛び上がって驚いたギムリは、
ホビットが去っていった方向をアラゴルンに聞いて、すぐさま追いかけていく。


俺もその後を追おうとすると、
アラゴルンに呼び止められた。



「ボロミア、私はフロドを探す。

ハレンは心当たりのある場所を話していたか?」



「いや、聞いていない。」



結局、彼女はどうしてフロドの居場所が分かったのだろう?
その理由さえ俺には思い当たらなかった。




「せめて、あの困ったホビット2人組みを捕まえて繋ぎとめててくれ。

もし、フロドに関することが、
少しでも分かったら、ここに戻ってほしい。

私もすぐに戻ろう。」



やれやれとため息をつくアラゴルン。

その言葉に頷いた俺は「フロドとハレンを頼む。」と言って、踵を返すのだった。
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