命のナマエ

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ーーーモリアにて、大事な仲間がひとり失われた。


こんなにも簡単に、

旅は誰かの命を奪っていく…。


戦場でも何度もしていた思いにも関わらず、
俺を含めて仲間の多くが、精神的に深い痛手を負うのだった。


灰色のガンダルフは、
この旅で重要な道案内役の役目も担っていたため、彼の損失は今後の旅に大きく影響が出るだろう。


そして、何よりも…。


泣きじゃくるホビットたちを、無言で見下ろすと、
ボロミアも、今にも崩れ落ちたくなるほど、
激しい空しさと悔しさが込み上げるのだった。



フロドは呆然と、モリアの出口を見つめていた。



あれほど何度も、ガンダルフの名を呼んでいたのに…。

今はもう、一言も発することはない。



痛ましい…と思った。

何故こんなに小さなものたちが、

こんなにも大きい重荷を抱えなければならないのだろう?


彼らは、本来なら温かい室内で食べ物や人々に恵まれて、
ほのぼのとした生活を送ってきたと聞いている。



(故郷に、帰してやりたい。

いっそ、その重荷を代わってやれるのなら…。)



悲しみに満ちた心に、
無情にもアラゴルンは、休むことなく進もうと先を急がせる。



「――もう少しぐらい、泣かせてやってくれ!」



そう抗議するも、アラゴルンは一切、
言葉を傾けようとはしなかった。


「我々には立ち止まっている時間も、泣いている時間もないのだ。

みんなを立たせろ、ボロミア。」



彼は厳しい声色でそういうと、
一人ずつ座り込んでいるホビットらの傍にいっては立ち上がらせようと、その腕を引っ張りあげていく。



(…こんな惨状で旅を続けると?)



近くにはフロドが地面にへたり込んでいる。



「――フロド…。」


声をかけたもののどう言葉を繋ぐべきか、悩んでいると、
傍にアラゴルンが寄ってきて「立つんだ、フロド。」と一言だけ告げた。


彼はその言葉に素直に従い、のろのろと起き上がるのだった。




「…ハレン、平気かい?」



背後から聞こえたレゴラスの声に、思わず振り向いた。



「――あたしは…平気。

急ぎましょう、此処を離れないと。」



俯いた彼女の目線からは、何も読み取れなかった。

それでも、二人のつながれた手からは、
事の深刻さが伝わるようで、もう何も言えそうになかった。


悲しみはいつまでも、仲間たちを包み込むようにさえ思えた。



後に、ロリアンでの生活で癒されたとしても、
ガンダルフの存在の大きさは日に日に浮き彫りになるばかりで、
仲間たちの心の負担は、いつまでも埋まっていかないような気さえした。
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