命のナマエ

□(29)
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けれど意外なことに、
その会議で彼女に再会することになる。


会議の終わり間際になって、
ホビットの群れと一緒に、会場にあらわれたのはあの時の少女だった。



彼女は、ハレンというらしい。

すでにエルロンド卿とは顔なじみのようで、
彼はハレンに何故この場にいるのかと訊ねたのだった。



「…あたしも行きます。行かせてください。」



彼女は臆することなく、自らエルロンド卿に進言したのだ。


指輪を捨てる旅に、誰もが躊躇している中で、
異質なほど積極的な発言に、俺は目を見張るばかりだった。


彼女の言葉は不可解そのものだとさえ思えた。


エルフのドレスを身にまとった彼女は、
普通の女性となんら変わらず、旅慣れしているとは思えない。

何故、女の身であり、
旅の必要のない者がわざわざ参加しようとするのかも理解できない。


近くにいたドワーフも、この件には反対のようでぶつぶつ文句を言っている。

けれど指輪の所有者であるフロドが、
彼女を認めるような発言をして、わずかにその場は静まった。


会議は閉会したが、
複雑な感情が心の中で広がっていく。



エルロンド卿やガンダルフという老人が、
それについて、何か反論することはない。

ということはこの件は、認められたという形に収まってはいるようだが…。


ハレンの元に、エルフの男が近づく。

けれどそれも一瞬の出来事で、
二言ほど会話したと思えば、そのエルフは立ち去ってしまった。



(…なるほど、彼女は人間側よりエルフと親睦が深いらしいな。)



ボロミアは少女が着ていたエルフ服の理由を垣間見てから、
頭を自分の思考へと切り替えた。



台座におかれていた指輪はもうすでにない。


様々な思惑を呼び起こすことになった指輪。
サウロンが復活しようとしている今。

我々があの指輪を手に入れた理由があるのではないだろうか?


ふとそんな考えが過ぎる。


馬鹿馬鹿しい。あんな小さなものが世界や国を変えられるはずがない。


ボロミアに一瞬過ぎった何かの執着は、
サウロンの悪意の一部なのだろうか。

この時の彼は、まだその声に耳をかそうとは思わなかった。
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