命のナマエ

□(27)
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――ずっと心の奥底に“誰か”が息づいている…。


それが自分の中にある『光』の正体だと気づいたその日から、
ハレンは【聖なる光の使者】であることを認めないわけにはいかなかった。


本来、魂など…触れられないし、
当然のように見ることなんて出来ない。


でも、ハレンは違った…―――。




27 water mirror-水鏡-


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何処にだっている、普通のあたし…。



それが中つ国にきてから、徐々にくつがえるのは時間の問題だった。


当時囚われていたサルマンの口から、
“人とは違う体質”を持ち合わせていることを聞かされたのが、全てのはじまりだった。



力を使えば使うほど、
聖なる光の使者としての力は開花したし、
扱える力の強さも増していった。

その変化は、当時のあたしからしたら、
自分の異質さを際立たせるかのように思えて、嫌で仕方なかった。



ー―聖なる光は、意思によって、

その形を自由自在に変化させることが出来る。



ちょうど、あたしがそれを知ったのは、
ガンダルフと会った頃の話で…。


それまでのあたしは、力に対して、
なんの知識もなくて、ただ怖がって内側に封じ込めたいと望みながらも、
コントロールのすべを知らなかった。


というのもサルマンは、力が時に暴走しようが、裏人格のあたしが、機嫌を損ねてオーク殺そうとも、常に無関心であったから。


ガンダルフいわく、聖なる光の力は術者の精神状態にかなり影響されるらしい。


当時のサルマンは言葉巧みに追い詰め、力を無理やり引き出しただけでなく、
その恐怖感を植え付け、自分の支配下におこうとした。


途中であたしの記憶が途中で断絶されて、
もう一人の人格に完全に切り替わった。

その頃には、すでにサルマンに精神的に取り込まれていたのだろう。


生きる屍となったあたしを、
塔のなかで縛り付けることで体制をととのえて、自分のものとしようとした。



――それが事の発端であり真実であると、
ガンダルフは、自分を責めるあたしに教えてくれたのだった。




『――…力はどんな心で、どのように働かせたいか明確にイメージすることが大事じゃ。

そして心を静めた上で、力を解放する。

傷を癒すならば、癒えていく過程を。

攻撃や防御に使うならば、相手にどんな手段を講じるかを、力そのものに命令する。

うまく扱うには、最後までそのイメージを手放ないこと…。
つまり、集中することがもっとも重要じゃ。』



そうすれば、力は意図した通りに働く。

意思の強さによって、
出力以上の相乗効果が生まれ、術者への負担も軽減される。

自分がどうしたいかという明確な意思が、力に形を与えるのだと…彼は語った。



特に、聖なる使者の間で好んで使われてきたのが“蝶のカタチ”だという。

移動もたやすく、一瞬で戦場を駆け抜ける。
攻撃にも守りにもなる、聖なる使者特有のシンボルらしい。


そして、ときに聖なる使者は、
自身を蝶に見立てるがごとく、

力で翼をつくり、戦場を天高く舞い上がったというのだ…。


その光景は、聖なる光の使者と聞かずとも、
紫の使者によって広く知られている。


――…〈天を駆け癒しを与えたエルフ〉と称えられた彼女は、
命が激しく奪われるその場を見渡しながら、
自分のことを厭わず、癒しの力を行使しつづけたのだろうか…。

共に戦っていたエルロンドも、当時その光景を目にしていたに違いないけれど。
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