命のナマエ

□(26)
3ページ/6ページ


タランを出てから、
ガラドリエルに取り次いでもらおうと、ハルディアを探してみたが、辺りに彼の姿は見当たらなかった。

護衛でロリアンを出払っているのだろうか。


そんな中、レゴラスと鉢合わせた。



「おはよう、ハレン。」


彼はいつもどおり、にこやかに話しかける。


「…おはよう、レゴラス。」


あたしはいつも通りに答えられただろうか。


レゴラスに会えて内心うれしかった。


でもその気持ちとは裏腹に、
昨日のことを思い出して気恥ずかしさのほうが増さってしまう。
結局、態度では視線を逸らしてしまった。


「ハレンはもうタランに戻るところ?」


そんなことをレゴラスは気にも留めず、
いつも通り話しかけてくる。


「…ううん、ちょっと散歩しようと思って。」


「私と一緒だね。」


彼はくすりと笑った。
その笑顔が温かくて、あたしは見とれてしまう。


「てっきり、ギムリと一緒だと思ってた。」


「ギムリならさっき別れたところだよ。
タランに戻って、斧の手入れをしたいんだって。」


レゴラスの言葉から、当たり前のようにギムリのことが話題になる。
やはり二人は格段に仲良くなっているみたいだ。
今までお互いに抱えていた種族間の確執は、完全に消え去ったのかもしれない。



「ハレン。
時間があるならこの後、一緒にいていいかな?」


あたしが頷くと、
レゴラスは思いついたようにこう言った。



「そうだ、花畑に行かない?」


彼が言ってる花畑はロリアンに入る前に、
皆で訪れた丘のような場所だった。


「うん。」


「じゃあ、行こう。」


レゴラスから自然と差し出された手。

いつも彼には、躊躇したり遠慮したりそういう感情は見られない。

素直に感情を表現して、自由なあり方で、のびのびと過ごしている。

その真っ直ぐさがあたしには羨ましかった。



――手を掴んで、きゅっと握り返した。



レゴラスは反応がないあたしを不思議そうに見返していたけれど、
手を握るとうれしそうに微笑んだ。


その優しさに、ひどく焦がれる。


愛しさが募っていく。


意識したら、止まらなかった。



止められなかった。



あたしは、それくらいレゴラスが好きだったのだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ