命のナマエ

□(25)
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月の光が包み込んだまま、二人は沈黙を保っていた。



ハレンの表情がゆがむ。


それでも、彼女は私を見つめ、
その視線を背けることを止めなかった。



「あたしは…」



彼女が口を開こうとした瞬間だった。



それを打ち切ったのは、下から聞こえてきたアラゴルンの声。

どうやら夕食の準備が出来たらしく、呼びにきたようだった。

ハレンは少し動揺したまま、口を閉ざした。




「…戻ろう。」



吹き抜ける夜風がやや冷たさをはらんでいる。

互いに疲れきっているのも確かだ。
もうタランで休んだほうがいいかもしれない。



ハレンを樹からそっと下ろし、
私も着地して、タランへと向かっていく。


彼女は後ろをついてきているが、
その表情は俯いていて見ることができなかった。



―――不安な感情と、わずかな恐怖。


そんな感情が、彼女の瞳に映りこんでいて、
何か言うべきだったのだろうかと考え込む。


答えは見つかりそうにない。



でも、君に伝えたいことはただ、ひとつで…。






「ハレン。」



振り返って、彼女の目を見つめる。




「――好きだよ。」



唐突な告白だったことは認めよう。


もう自分の感情を隠すことはしなかった。


ハレンは目を見開いて、立ち尽くした。




「…行こう。皆が待ってる。」



きびすを返して、歩き続ける。

もう関係は戻らないかもしれない。

そんな覚悟があった。



――例え、お互いの関係が壊れようとも、
もう見ていないふりは出来なかった。
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