命のナマエ

□(25)
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ロスロリアンに向かう道中のこと、
私たちは周囲の警護にあたっていたハルディアと鉢合わせした。

話し合いの結果、ギムリも含め、
ロリアンに入ることを許可され、
その日は久しぶりに寝床を確保することが出来た。


レゴラスは用意されたタランに戻らず、ハレンの帰りを一人待っていた。


彼女はハルディアに、話があると持ちかけられていた。
もしかしたらその内容は、“聖なる光の使者”に関わる事なのかもしれない。



「話、終わったんだね。」


戻ってきたハレンに声をかける。



「もう少しだけ、此処にいていい?」


彼女は先ほどより、やや不安げな表情でこちらを見やった。

今はまだ、皆の待つタランに戻りたくないのだろう。
少し落ち着いて、話をしたほうがいいかもしれない。

だが、此処に留まるのは、
オークの追っ手が近くまでやってきている可能性を考えると、得策ではないと思えた。


レゴラスは、マルローンの大きな木々を見つめた。




「おいで、大丈夫だから。」


ロリアンに近いこの周辺の森は、マルローンの樹が自生していた。


その枝に手を伸ばして登り、体勢を整えると、
下から見上げている彼女に手を伸ばした。

彼女の細い手を掴み、一気に引き上げると、
そのまま自分の元へと引き寄せた。



「此処だったら、好きなだけ居られるから。」



二人してその樹冠に抱かれるように腰を下ろした。

暗がりの空から、星々の明るい光が瞬いている。



裂け谷でも彼女と星を見あげたり、
こうして一緒に樹に登った事を思い出す。



ハレンの表情は、幾分か落ち着いているようだった。
ゆっくりとした時間が流れていた。




「何を話してたの?ハルディアと。」



それを打ち破ったのは、私だった。




「大したことじゃない…−―けど、」



ハレンは話してくれないかもしれない。

そう思っていたから、次の言葉に驚きを隠せなかった。



「…ガラドリエル様からの伝言。」


「奥方様が、何て?」


「…それ以上は言えない。ごめん…。」


ハレンは顔をゆがめ、苦しそうだった。



「ハレンは正直だよね。」


そっと彼女の髪に手を伸ばす。

今も気を許して好きなようにさせてくれる。


彼女はとても優しい。
きっと嘘はつくことが出来たとしても、一人苦しむのだろう。




「私はね、ずっと君からの言葉が聞きたくて、
だから急がなくていいと思っていたんだ。」




―――そう、この言葉を言う日は、

来ないだろうとさえ、思っていたのに。



柔らかな髪に触れて、

その手を君の頬へとすべり落とした。




「せめて、この旅が終わるまで、

一緒にいることができたなら、それでいいと思ってた。


でも、私は間違ってたかもしれない。」




いっそ、その唇を奪ってしまいたかった。


でも今はその気持ちを押し込めた。




「ハレン、君は何者なんだい?

…その答えを、そろそろ私に教えてくれないだろうか?」




君の全てを、私は受け止めてきれるのだろうか。


壊しはしないだろうか。



ハレンは私の顔を凝視したまま、言葉を失った。


25 tear drops-涙-
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