命のナマエ

□(21)
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あの後、タランに戻った後は何事もなく、皆で夕食をとった。

レゴラスもいつもと変わらずにニコニコと笑っていたし、
顔を合わせる事もしゃべる事も避ける様子は見せなかった。


就寝前にどういう配置で寝るかという話になった時は、
皆の前で「ハレンは端がいい?隣は私で問題ないね?」と確認をとっていたから、
至って変わらないといえば変わらないのだ。



ただひとつ…彼がスキンシップをしようとしない事を除けば。




ハレンは複雑な気持ちで昨日のことを思い出す。


そもそも返事を聞かなかったのは、何故だろう。


彼はいつから、そんな風に想ってくれていたのだろう。






―――駄目だ、昨日のことが衝撃的すぎて、

レゴラスのことばかり考えてしまう。




「ふん、目隠しなんぞして歩くもんか。」



旅の仲間の中で、
ドワーフ一人だけに課せられたルール。


それに対してギムリが不満を抱くのは当然のことだが、
先ほどから話が進行してくれず、いつまでたってもこの調子で出発できない。



「わしは…しらんぞ、その約束はわしの承諾無しにされたものだからだ!

だったら自由に歩いて何が悪い。

目隠しをするくらいなら故国へ戻ってやる。
荒れ野で一人倒れたってあなた方には関係ないはずだ。」



「(…まあ、そうなるよね。)」


ご自慢の頑固っぷりで、捨て台詞まで披露し始めたギムリに対して、
同じことを予期していたあたしとフロドは、
互いに視線を合わせ、無言で苦笑するのだった。



「いつまでも言い合っていても仕方ない。

そもそも、ドワーフというだけで一人だけ扱いが違うことが問題なのだ。
我々みなが目隠しをすれば済む話だ。

どうだ。ギムリ、それでいいだろう?」



アラゴルンがそう言って、ハルディアに目隠しが人数分あるのか確認する。

ギムリはその言葉に「レゴラスさえ付き合ってくれれば結構!」とご満悦のようだが、
当のエルフは不満を露にして、「…私はエルフですよ!」と訴えた。


売り言葉に買い言葉になり、
レゴラスとギムリは向き合ってお互いに「意地っ張りドワーフ!」「意地っ張りエルフ!」と言い合う始末。


ある意味、息がぴったりな二人に、
ハレンは大人気ないな〜とため息を落とす。



「レゴラスも、目隠し…つけよう。」



むくれた顔で、ギムリから顔を背けているレゴラスに対し、
あたしはそっと言葉をかける。



「私はエルフで身内なのに…」



レゴラスは、でも、だって、といつもより強情で、その姿はまるで駄々っ子のようだ。



「そうじゃないと、進めないわ。

1人でも欠けちゃ駄目なのよ。9人全員で旅の仲間なんだから。」



そう投げかけると、レゴラスはハッとしてこちらを見つめ返した。

彼は少しだけ俯いて、「ハレンの言うとおりだね」と呟いた。



「この目で道中の風景が見れないなんて、とても残念だよ。」



目隠しをする前に、そう一言だけ名残惜しそうなレゴラスの声がした。
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