命のナマエ

□(21)
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月の光が包み込んだまま、二人は沈黙を保っていた。


美しい光の中で、

彼の金髪が浮かび上がる。


請うような切なげな瞳に、



「あたしは…」



口を開こうとした瞬間だった。



それを打ち切ったのは、下から聞こえてきたアラゴルンの声で。

呼びかけられたレゴラスは、エルフ語で返答を返して、あたしに向き直った。



「…戻ろう。」



彼は小さくそれのみを告げる。

アラゴルンは先に、タランに戻っていったようだ。


ハレンはレゴラスの助けを借りつつ、地面にそっと下ろされた。
その後、彼は枝から滑り落ちるように着地を決めて、タランへ向かっていく。


ハレンは困惑したまま、その後姿を追いかけた。




ずっとレゴラスは気づいていたはずだった。


あたしが普通の人間じゃないことも、

何か特殊な事情を抱えていたことも。


だから、あえて触れずにいてくれたことも、


あたしは知ってた。



なのに、ずっと言わなかったのは、


レゴラスに甘えていたからだ…―――




いつか話すつもりのままで、

ずっと話さずにきてしまっていた。




いつまでも仲間に隠し事だって出来ない。


分かっている、


分かってはいるんだ…。



でも、あたしの事を全部、話しても、



今まで通り、仲間や友人のままでいられるのかが…怖い…。




そんな事が頭をよぎっていた時、急にレゴラスが立ち止まる。




「ハレン。」



名前を呼ばれた後、彼から飛び出した言葉は意外なものだった。



「――好きだよ。」




その率直な言葉は、あたしの心にまっすぐに射抜いた。


エルフの瞳は月の光を受けて反射し、ゆらゆらと揺らいでいた。




「…行こう。皆が待ってる。」


レゴラスはそう呟くと、くるりと踵を返し、
何事もなかったかのように歩き出す。



思わず立ち尽くしてしまうあたしに対して、

レゴラスはこちらを振り向くこともないし、
いつものようにあたしの手を引くこともない。



それが余計に戸惑いを大きくさせて、
彼の後ろ姿がぐんぐんと遠ざかった。




伸ばそうとした手は、ぎゅっと自分の心の中にしまった。





彼に打ち明けるべきだったのかもしれない。

それが出来なくても、せめて、その手を握れば良かったのかもしれない。



でも、あたしはどちらも出来なかった。


21 confession-告白-
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