命のナマエ

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一行が森に入ってしばらく歩き続けると、
やがてニムロデルという川に行き着いた。

レゴラスいわく、
其処は、エルフ達が昔にたくさん詩に残した有名な場所で、
今でもその詩は歌い続けられているそう。


橋はもう壊れていて当時の姿のままとはいえないけれど、
それでも旅の疲れを癒すといわれる川の力はいまだ健在らしい。



「ハレン、私についてきて。足元には気をつけて。
滑らないように…。」



レゴラスは先頭を歩き、皆を導いていく。

どうやらこの川を歩いて渡るようだ。

そっと差し出された手を、あたしは取った。



冷たい水の、穏やかな流れに身をゆだねる。


何故だろう…。


心が少しだけ軽くなるのを感じた。



「向こうに土手があるので、休むならそこへ。」



レゴラスの案内で、皆も続いて川を歩いていく。

土手にたどり着く頃には、
重たかった足と気分がずいぶん楽になった。

軽く食事を済ませれば、より一層、
疲れは癒されていくのを感じて、
久しぶりにホビットたちの顔にも笑顔が垣間見える。




「―――ロスロリアンってどんな所?」


休憩中のレゴラスとの話題も、
自然とロスロリアンのことになっていく。


「綺麗なところだよ。
黄金の森とも言われているくらい、素晴らしい場所。

だから言葉ではうまく表せないかな…。」



エルフである彼が、
言葉では表せないと思うほど美しい場所。


其処は、きっとこの世のものとは思えないような所なのかもしれない…とハレンは考える。


(そのロスロリアンで、皆の疲れが癒されてるといいけれど…)




「ハレンは、樹や花が好き?」


「そうね、好きだわ…。」


「ロリアンに生える樹は特殊でね。
マルローンというのだけど、樹皮は銀色、花は金色なんだ。」



レゴラスの話を聞きながら、
ハレンの思考は別の感情へとすり替わっていく。



ガンダルフが離脱したあの一件以来、
皆の顔色が良くなったように見えても、
やはり無理をしているように感じてならない。


それはレゴラスでさえ、そうで…。



今、仲間に本当に必要なのは、
心のケアなのだということはハレンも十分に分かっている。


だけど、自分に何かが出来るわけじゃない。



ましてや、
ガンダルフが白の魔法使いになって戻ってくることなど、誰かに言えはしない。




無力感に似た何か、が

根を下ろし、心の底に沈殿していく。


きっとこの想いはこの先、
誰にも打ち明けないだろうと、ハレンは覚悟した。




「――エラノールという星型の花や、ニフレディルという白い花が綺麗だよ。

丘にたくさん咲いているだろうから、着いたら案内してあげるよ。」



「うん、楽しみにしてる。」



あたしはレゴラスの話に相槌を打ちながら、
胸が締め付けられるその痛みにそっと蓋をした。
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