命のナマエ

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走っていく途中、気がつけば辺りは一面炎に包まれていた。

黒い煙から姿を露にした火の化身。
赤い赤い炎の巨体がこちらに向かってくる。

その光は明るいのに、
身の毛もよだつ恐怖心しか感じない。

暗闇を照らし出す火が憎悪と邪悪に満ちていると感じたのは初めてのことだった。



「…ああ、バルログだ!」

「ドゥリンの禍だ。」


レゴラスが震える声をあげると、ギムリも目を大きく開いた。


「あれが、バルログ…」


ハレンは身体の感覚がなくなりそうなくらい、凍りつくように動けなくなるのを感じた。


「急いで橋を渡れ!
あれはお前さんらが一人として適わない相手じゃ!」


アラゴルンも声を張り上げ、皆を先導していく。
そんな中、ガンダルフは橋の中ほどで立ち止まり、迫りくるバルログに向き直った。


「此処は断じて通さん!」


強い言葉で言い放つ魔法使い。



「ガンダルフ!」


フロドは彼の名を叫んでも、彼は引き下がらなかった。

魔法使いとして、先導者として、
仲間をこのモリアから無事に脱出させるために。
きっと…何よりもフロドを守るために。



「わしは神秘の火に仕えし者、アノールの焔の使い手じゃ!

暗き火、ウドゥンの焔は貴様の助けとはならぬ!」


バルログの振り上げた炎の剣に対抗し、
その力を振り絞るガンダルフ。

彼の杖と剣から、白い強い光がほとばしった。


「常つ闇に戻るがよい!ここは決して通さぬ!!」


魔法使いの白き焔は、稲妻のように強い閃光とともに、橋を打ち砕いた。
バルログはぐらりと傾き、重力のままに堕ちていく。

ガンダルフの顔には安堵が戻り、こちらをゆっくり振り返って…

仲間の全員がその勇姿に歓喜した。
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