命のナマエ

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『あたし、自分の事が好きじゃないの。

きっと昔からそうだったわけじゃないけど、
今は大切にしたいなんて思えない。

自分なんて、どうでもいいとさえ思ってる。

軽蔑したでしょ?』



ハレンは次々と自分の心のうちを吐露していく。
自嘲した笑みを浮かべて、自己嫌悪の渦に陥っていく。


(全部、自分で撒いた種のくせして…。)



サウロンが全ての元凶といいながら、
あたしは自分に罪を感じている。
その矛盾に気づいていたのに、知らない顔してきた。

ガンダルフに頼って、レゴラスに頼って、
これ以上、あたしは何を犠牲にして、進むつもり?


ハレンは徹底的に自分自身にうちひしがれていた。



(汚い自分・・・)


認めてほしいだなんて、
自分を誰かに見てほしいだなんて、なんて罪深い…。



『レゴラスに大切だなんて思ってもらえる資格なんてないっ!

あたしは…っただの…―――』



言う筈じゃなかった。

いつもなら押し込めてて、浮き上がる事のない言葉だったのに。



〈此処から逃げるなど考えないことだ。〉


やめて。


〈お前は闇そのものに値する力を秘めている〉


もう、終わった事よ!


〈―――お前は“化け物”だ!〉



過去のキオクが浮上して、ぎゅっと拳を握る。
きつく握ったあまりに、爪は肌に食い込んで赤い線をつけた。



『ねぇ…レゴラス。

どうやったら、自分を好きになれるの?

あたし、分からない…。』



レゴラスがあたしを“大切だ”と言ってくれる
その理由が、考えても分からないのだ。



『…ハレン。

私は、不謹慎かもしれない。』



何を急に言い出すんだろう。
込みあがりそうになった涙がひっこむ。



『君のその言葉が聞けて、嬉しい。

安心したんだ。

ハレン。君は自分が思っている以上に、自身のことを大切に捉えている。

だけど、その方法が分からないだけじゃないかな。私はそう思う。』


エルフは静かに、歌うかのように言葉を紡ぐ。



『君は、自分以外の“誰か”を犠牲にしたくはないだろう。

でも、そのために自分を犠牲にしようだなんて考えないで。

そんな事されたら、私はとても心臓がもたないから。』



あたしはただレゴラスの言葉を静かに聴いていた。



『…だから、
これからは自分を守りながら、相手も救う方法を考えていればいい。』


あたしは耐え切れなくなって、ドアを開け放つ。
びっくりした顔のレゴラスがそこに立っていた。



『一緒にその方法を探そう。私と共に。』



差し出された手をもう拒みはしなかった。


“一人じゃない”

貴方と居るたびに思い知らされるのだ。

深く深く心の奥まで染み渡り、氷を溶かしていくかのように沈んでいく。



(あたしも、――大切なんだ…)


誰が?という心のささやきには答えない事にして、その日は大声を上げて泣く事になった。

少しずつ雪は溶かされて、冬の時代は終わりを告げる。
彼女が待ち望んでいる春はまだ遠いけれど。
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