命のナマエ

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カラズラスを下山していく中で、
モリアの坑道を次の道筋にあげるのも自然な流れだったように思う。


モリアとは『黒き坑』と呼ばれるドワーフの地下都市。


ガンダルフはこの道を勧めるものの、ギムリ以外はあまり賛成する気配がなかった。

特に、レゴラスとボロミアはかなり拒んでいるように見える。



「フロドはどうなの?」

ハレンが指輪保持者に問いかけると、仲間はそれを黙って促した。


「僕だって行きたくない。でもガンダルフの意見を無下には出来ないよ。
今晩くらいはゆっくり考える時間がほしい。」


結局、会議の中で、有力な代案は出ないまま、
フロドの一言で、保留という形になった。


仲間はそれぞれ思い思いに、この先の旅について考えているようだ。

その傍らで、フロドの顔が青ざめている。
気になってハレンは隣に座り、声をかけた。


「大丈夫?」


「ハレン、なんか此処…怖いんだ。
ああ、なんでこんなに風が吹くのが恐ろしいんだろう!?」


(…風?)

ハレンは頭上をあおぐ。
感覚を研ぎ澄まして、音だけに集中すると、明らかに風ではないものが含まれている。


「アラゴルン、ワーグ(魔狼)だわ!」

「ワーグが…」

声を張り上げると、彼も吠えるような獣の声に気づいたようだった。


「もう朝まで待ってはおれんな。」


ガンダルフが冷静に告げて、立ち上がる。

アラゴルンやボロミアは、剣をさやから抜き、警戒態勢を整える。
一方、ピピンは気を落としたように溜息をついていた。


「ああ、こんな事ならエルロンド卿の忠告を聞いておけばよかったよ。」


彼は友人に付いていくこと一身で、
旅の危険さをあまり深く考えてなかったのかもしれない。


「僕なんて何の役にも立てないんだ。
あの吠える声を聞いていると、血が凍るよ。

こんな惨めな思いは初めてだ。」


「おらも心臓がおっこちてしまいそうなほどですだ。

でもまだ誰一人喰われちゃいません。
仲間には、勇敢なお方がたくさんおりますだ。」


サムはピピンの気持ちを慰めるように告げる。


「そうよ、二人とも。

あたしだって戦えるんだから。」


後ろから二人の肩をたたくと、驚きのあまりビクッと身体を震わせた。


「びっくりさせないでよ、ハレン。」


おっかなびっくりのピピン。


「ハレンさんは戦えるのですか?」


サムは今にもおっこちそうな心臓を抑えながら、問いかける。


「一応ね。」

ぎゅっと杖を握り締める。
ガンダルフのと比べて小ぶりで、軽いのが特徴だ。


「ハレン。
ずっと聞きたかったけど、それって杖なの?」


「そうよ、剣と弓も扱えるわ。」

「すごい達人ですだ…。」


サムが感心したように見つめている。


「でも、杖って魔法だよね?
ハレンは人間なのに、魔法が使えるの?」


たまたま近くにいたメリーが投げかける。

痛い所ついてくるじゃない、メリアドク・ブランディバック。

でもそれもそうか…
魔法を使えるなんて、ガンダルフくらいしか居ないものね。


下手なことは言えないけど、いざという時に言い訳がきかないのも面倒だし。


「えーと、魔法…とまではいかないわよ。

あたしに出来るのは、ガンダルフ直伝のマジックとその応用くらいだから。

種も仕掛けもないガンダルフとは大違いよ。」


そうやって笑ってごまかすと、
ホビットはそのまま深く考えず「へぇ、すごいや〜」などと信じきっている。


「鳩を出したりできるの?」


「ええ!?」


「トランプを当てたりとか?」


「それはちょっと、道具だってないし…」



一時的に、ホビットの集中攻撃(主にメリーとピピンの質問)の的となることはいうまでもなかった。


その様子を、やれやれと言いたげなガンダルフが何ともいえない顔で見つめていたが、
助け船は出そうになかった。


17 warg-アクマイヌ-
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