命のナマエ

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「この先、指輪の力はより増してくるじゃろう。」


「はい…。」


旅が進めば進むほど、主人の下へ指輪は近づいていくことになる。

暗闇は増して、より強い誘惑となって、フロドを蝕むかもしれない。


そして、おそらくあたし自身も。


“内側の影が、より大きな闇を望む”に違いないということで。




「指輪は確実に、よりサウロンの元へと導きやすいものを誘惑するんですよね?」


「そうじゃ、この旅の仲間にも例外などない。」



逆説的にいうと、あらゆる全ての者にその可能性があるという事なのだ。

そして、最初のターゲットはまちがいなく、ボロミアなのだろう。

ただガンダルフはもうこの時点で見抜いているという事実には少々驚いた。



「アレは心を歪ませるのが得意です。

例え善意であっても、誘惑に打ち勝つことは難しいと、聞いたことがあります。」


「その通りじゃ、ハレン。
サウロンの指輪にはお前さんも注意するのじゃ。」


「どういうことですか?」


真剣な表情のガンダルフに、ハレンは違和感を覚える。


あいにく彼女ははあの指輪を見ても、何も感じなかったからだ。

ただとてつもなく“不快”なだけ。



〈ハレンにとって、サウロンは異世界へと引き込んだものとしてインプットされておる。
どれだけ誘惑されたとしても、不信感以上の感情は見出せんのじゃろう。〉



ガンダルフの見解は最もで、
あたしにとってサウロンが全ての元凶である以上、どんなことを差し出されても揺るがない自信があった。

あたしが“中つ国にトリップしなかった場合”に勝る状況はありはしないから。
それを引き起こしたサウロンの言葉など、傾けようとは思わない。



「お前さんが指輪の影響を受けんのはわかっておるが、警戒はすべきじゃ。

少なくとも自らの身が危ういことを知っているならば、なおさらじゃ。」


詳しい理由は語ってくれそうにない。
だが、ガンダルフは何かを気がかりに思うゆえに発して言葉。

なら、従っておくほうがいいだろう。



「分かりました。」


それ以上、ガンダルフからこの話題を話すこともこちらから振る事もなく、
ただ二人は、来た道を戻るのだった。




先に行こうとするガンダルフに追いつこうと駆け寄り、
その手をとってきゅと握り締める。



「此処も冷えますね…。」


「だが、これから火は当分使えまい。

お前さんにもホビットの諸君にもこたえる話じゃろうて。」


クリバインの襲撃によって、夜行と火気厳禁が決定している。

保温という目的だけでなく、
そういうちょっとした慰めが厳しい旅には必要だったりするのだが…命には代えられない。


「そうですね。」


それ以上、ハレンは何も語らず、
ただ穏やかな風とその温度を感じとっていた。



彼に聞きたい事は山ほどあったはずなのに、

やはり紡げなかった。


青い空には、淡白い月が浮かんでいる。

光には満たない曖昧な存在が、二人を遠くから見守っていた。
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