命のナマエ

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旅は進むごとに困難をましていく。

敵の目をかいくぐるために、荒れた山道を超えていき、
山から吹き抜けてきた寒々とした風が身を打つように身体を冷やした。

もくもくと進むこと数週間。

やっと風がやんで柊郷という国境までやってきたのである。


久しぶりの穏やかな夜。

やっと私たちはほっとした様子で腰を下ろし、ゆらゆら燃えている焚き火を見つめた。

火を見ると、心がやすらぐ。


「ハレン、これを。」


レゴラスが温かい飲み物を渡してくれた。


「ありがとう。」


毛布を肩にかけてもなお、冷える身体にはこの温かさが染み入る。


その様子に、レゴラスは少し心配そうに彼女を見やった。


「…君は女性だから、なおさらきついだろうね。」


その言葉には優しさが見てとれる。


「仕方がないわよ。
旅は過酷だって、分かっていたことだもの。

それに、この先はもっと大変になるわ。」



ゆらゆら明るい炎が燃え上がる。
それをじっと見つめながら、長い旅路を想った。



「『カラズラス』だね。」


ハレンの意図したいことが分かったように、レゴラスはきゅっと眉をひそめる。


“無情なる”と旅人に悪意を持つがゆえにつけられたその名。



「………。」



心にはぼんやり不安がゆらぐ。

私は旅をちゃんと続けられるのか。

足手まといにならないか。


…そして、カラズラスで起きるあの事件。



旅の仲間に、きっとわずかな亀裂と不信感をうみ出す。

指輪の存在はこの絆を確実に壊す。


遠巻きにボロミアを見る。
彼は穏やかな表情で、ホビットたちと戯れている。


…この平穏を乱すのだ。




「ハレン…?」



よほど表情を曇らせていたのか、レゴラスが不思議そうにこちらを伺う。


「なんでもないわ。

ここは…温かいね。」


レゴラスはそれ以上何も問い詰めなかった。



ほんのつかの間の平穏。


温かい炎とその雰囲気に和む仲間達。


この温度が、いつまでも続けばいいのに。





16 Caradhras-赤角山-
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