命のナマエ
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「つ、辛い…」
旅は予想以上に困難を要するものだった。
足手まといにならないなどと言ってはいたものの、簡単にはいかない。
「口ほどにもないな…」
ガンダルフの休憩の合図とともに座り込んでしまったハレンの隣を、
ボロミアが蔑んだように一瞥し、通り抜けていく。
その態度にムッと眉間に皺を寄せた彼女は、
疲れていたことも忘れて立ち上がり、パタパタと駆けていく。
「アラゴル〜ン、ボロミアが苛める〜」
泣きつくかのように声を上げれば、ボロミアは驚いてこちらを振り返る。
「なっ…!」
ハレンは声を上げるボロミアには見向きもせず、ガンダルフとアラゴルンが談笑を交わしている中、割って入った。
言い返すことは出来ないが、こういう攻撃なら容易い。
「・・・そうか。」
一方、突然話を振られたアラゴルンは冷静なもので対して驚きしなかった。
そしてその返答も、ただ受け止めるだけという最低限のものに留まった。
決して、関心がないわけではないのだが、
最近このやり取りが、当たり前になりつつあるのかもしれない。
「ちょっともう少し反応してよ。」
不満そうに漏らすハレンだが、怒っているわけではなさそうだ。
彼女なりに言うと『面白みが足りない…』のだろう。
それを分かっているからこそ、ガンダルフやアラゴルンの態度は温かい。
その後アラゴルンが何かを言えば、ハレンが何かを言いかえすの繰り返し。
輪の中から外れたボロミアは遠巻きに見つめながらその場を離れていった。
彼の目には、ハレン、ガンダルフ、アラゴルンが仲睦まじく映っている。
子供のように笑う彼女を見守る2人はまるで親のように見守っていて。
無邪気な何も出来ない少女だろうと思っても、否定する気持ちは沸かなかった。
それに比べ、自分なりのコミュニケーションは相変わらず不器用だと、
ボロミアは自嘲の笑みを零した。
ふと視線を感じて視界を上げると、
どこからか颯爽と現れたエルフと目があった。
「何か?」
「なんでも…。」
彼は表情を変えず、スタスタと歩き去っていく。
(睨まていた気がするのだが…)
一人残されたボロミアは、自分が何かしたのだろうかと思考を巡らせるのであった。
15 moonlight-月光-