命のナマエ

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旅立ちの日が近づけば、近づくほど、

あたしの決心は固くなっていった。



その日があと一週間と迫った頃、あたしはあるものを完成させ、
それを見せるべく、師を呼びとめた。




「…あ、ガンダルフっ!!」


「ん、なんじゃそれは?」


目ざといガンダルフの事だ。
すぐにあたしの手に持っているものに気づいた。



「これ、お手製の杖なの。
本を見てそれっぽく作ってみたんだけど…」


「杖、じゃと?」


ガンダルフはそれを手に取り、しげしげと眺める。


杖の材質は柔らかなオリーブの枝。

以前折れてしまったという枝を頂戴し、
エルロンド卿に頼んで加工を加えてもらった。


ほっそりしてしなやかだが、か細くない。
よく手に馴染み、自分の背丈に合うのだ。

色や機材は塗らずそのままの形で、掘り出した杖は、
先端に大きな石を抱えこんでいる。

これはペリドッドと呼ばれる石らしく、
製作する際にスランドゥイル様に頂いたものである。


もちろん、こころよく応じてくれたのだが、

どれを渡そうかしばらく悩んでいたのか到着するのが遅く、
製作するのに時間がかかってしまった。



「なかなかの出来じゃの。

どれ、わしも少し手を貸すまいか。」


そう言っては、
どこからか小刀を取り出したガンダルフはその杖の先端に文字を刻んでいく。


「それって…ガンダルフがいつも刻んでいる文字?」


見覚えがあったエルフ文字だ。
たまにガンダルフの私物やなんやらに、付いている。

rに似たような変わった形。



「その通り、これは魔法の文字じゃよ。」



魔法使いはそう言ってウインクをした。

文字の意味は分からないが、まるで彼が認めたという証のように思えて、
あたしはそれを大事に受け取った。


「…ありがとう。」



「して、何故杖を作ることにしたのじゃ?

ハレンには必要なかろう。」


一部の人には分からないが、
(ハレンの力には)という意味合いが含まれた言葉をガンダルフは言った。



「そうなんだけど…ガンダルフが言ったでしょ?

コントロール出来るまでは、何かを通して使うほうが懸命だって。」



ここ最近は彼の指導のもと、聖なる力を使うための特訓も行っている。

元々、使者の力は魂に宿るもの。

したがって意志の力のみで行使できるのだが、
そうなると感情や本人の力量に作用されることが大きく、
その分強い力が扱えるが、使者への反動も大きい。

だから使者は、指輪を解して力を解放しているのだ。


それと同じ原理で
物を介せばその分だけ扱いやすくなるはずだと、ガンダルフは言っていた。



「…わしの“弟子”とはうまく言ったものじゃの。

それを使っておれば、
弟子という言葉に疑問に持つ者も少なかろう。」


「ですね…。

それに、あたしの持つものをそのまま皆に見せるのは気がひけます。」



「…じゃが、旅ではそうはいかんぞ。隠しておく事はできまい。」



ガンダルフの言葉が突き刺さる。

それも、此処の所ずいぶん考えた内容だ。



「もちろんです、覚悟は出来ています。」



あたしは迷わず答えた。



もう、言葉にするのは怖くなかった。



―――少なくとも、貴方だけは、

どんな状況であっても、あたしを蔑むことはないと今は知っている。
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