命のナマエ

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「こわいのです。私が私でなくなるのが…」


小高い丘、血に塗れた後の戦場を見つめながら、ひとり綺麗な女性が立っていた。


衣は柔らかな布地で見入ってしまいそうなほどの白。
しかし裾は汚れが滲み、所々切り裂かれていた。

そして、彼女の頬には女性とは思えない傷跡が刻まれ、赤いものが下へ下へ垂れていた。

そんな状況下でも強い双眸は屈することなく、
戦場とその遥か彼方の地平線を見つめている。



長い紫色の髪は、風によって靡いた。

彼女は空を見つめ、美しい蒼に目を細める。



「…私をいつか、殺して。」


呟いた言葉は、その隣にいる獣に向けられたものだ。



「それは我の役目ではない。」



低く重い声で、唸るように告げる銀狼。

鉄のにおいが混じった空気に、彼の声は漂った。



「我は、お前が死を望んでもそれを与える事はない。
たとえその方がマシであろうと我はそれを望まぬ。

ただお前が死ぬ時、我も共に死のう。」



女性は隣を見てそっと微笑み、再び広い空を見つめた。






―――不思議な夢を見た。


記憶には無いけれど、不思議と懐かしさがこみ上げる夢だったから分かる。



これは、あたしの前世の記憶だ…と。



目覚めた時、目には涙が溜まっていて、沢山の水滴がボロボロと零れていた。


悲しいわけじゃない、でも…複雑な気持ち。


沢山の感情が入り混じったそれは、あたしの視界を滲ませるには十分だった。




12 sun and moon -月日-
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