命のナマエ
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「あれ、誰だろ?」
勉強道具一式を部屋に突っ込んで、
そのまま一人で散歩コースに突入していると、
見知らぬ人がベンチに座っていた。
容姿がどう見てもエルフじゃないから目立つ。
人間?
にしては、背丈が小さいような・・・。
「ああーっ・・・ホビットっっ!!」
そうか、すっかり忘れてた。
この世界には、ホビットがいることを。
だって今まで、エルフと魔法使いにしか会ったことなんだもの。
大事な事だったのに、
すっぽり記憶から抜けていたのは、やはり当初サルマンに捕まっていた事も関係しているだろう。
中つ国を楽しむ事も、誰かと交流する事もない。
そんな余裕さえ、ずっと与えられなかったのだから。
あたしは思い切り大声で叫んでしまったので、
その人はこちらに気づいてしまった。
あら、まずい事に。
そして、その人は一言。
「・・・お嬢さんは人間かね?」
見た目よりも遥かにしっかりした口調の老人。
ではなく、老ホビット。
あたしが頷くと、
ホビットは丸くてきらきらした瞳を輝かせて、にっこりと笑った。
その笑顔がいかにもチャーミングだ。
「ふむ。
わたしも色んなエルフや人間に会ってきたが、いかにもエルフというドレスを着ている娘さんに出会うのは初めてだ。
しかも小さい人を知っとるとは、これまた驚きだ。」
身振り手振りが大きくて、何とも人のよさそうな性格がにじみ出た口調。
目の前のホビットが笑っているから、釣られてくすりと笑ってしまう。
「ええ、あたしも驚きました。
話に聞いた事があっても、会うのは初めてなんです。ホビットさん。」
打って変わり、丁寧な口調で言葉を返す。
まさか、この人に会えるなんて。
「そうかね。
わたしはビルボ・バギンズ。
物知りで風変わりなお嬢さん、名はなんと言うのかね?」
・・・風変わりなのかな。
そう疑問に思ったけど、
もし客観的に自分を見たらそうなのかもしれない。
人間でありながらエルフの土地にいる、
エルフの服を着ている人間。
全てがちくはぐなのだから、確かに変わっている。
「挨拶が遅れました、ビルボさん。
あたしはハレンといいます。」
先ほどは失礼しましたと一言付け加えてから、
自分の名前を名乗り、挨拶を交わす。
「…お邪魔してしまいましたか?」
ビルボの手元には書きかけの本。
赤い皮の表紙のある冊子があった。
そして、沢山のメモ書きも。
「いいや、丁度上手い言葉を思いつかなかった所でね。
こういう日は外に出て気分転換をすると、
良い言葉が思いつくもんだ。」
「あたしも気分転換をしに来たんです。
外に出たら、良い考えが浮かぶ気がして。」
ビルボは「お嬢さんもか!」と驚き、
二人は顔を見合わせて笑った。
「そうだ。時間はあるなら是非、わたしの話を聞いとくれ。
冒険話は好きかね?」
ビルボ本人が語る冒険の物語。
素敵なお誘いだった。
「ええ、もちろん。」
そう即答すると、
ビルボは満足げに頷いて、たくさんの話を聞かせてくれた。
若かりし頃の旅の思い出を。
その話はとても面白くて楽しかった。
あたしは時間を忘れて、子供のようにはしゃいでしまったのだった。
昼食の誘いにレゴラスが迎えにくるまで、
だたひたすらビルボの話に耳を傾けていた。