命のナマエ

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うららかな午後の陽気。

思わず、うつらうつらしてしまいそうになる。


せっかく天気がいいのだからと、
エルフ語や共通語の本を片手に、珍しく外に飛び出してみた。

庭にはテラスのように木のテーブルやベンチが置かれている場所もあった。

あたしはそこで本とメモ用紙を開き、
ペンを片手に文字の練習に励んでいた。


そういえばここ最近、ガンダルフと全く会っていない。

理由はひとつ。
怪我人フロドが裂け谷に運ばれたからだ。

ガンダルフはあたしの事をまるっきり忘れているかのように、
元の世界に戻る件も置き去りのまま、
いそいそとフロドの部屋に通いつめている。

あれ以来、会話らしい会話すらしていない。


エルロンド卿も付きっきりで看病にあたっているのだと思う。
未だ危険な状態なのか、何処にも姿を見えなかった。

フロドの所に行っても、
自分が何か手伝えるわけでも、怪我を治せるわけでもない。

むしろ、治療の邪魔になるだけ。


そんなわけで、
仕方なく部屋にひき篭もるか、レゴラスと行動を共にするかのどちらかだった。



「んー…、難しいなぁ…」


レゴラスに教えてもらった単語をひとつひとつ書き記した単語帳ノート。

それを見つめながら頭の中の文を文字にしようとした時、手元が止まった。


部屋で勉強を進めても、全く進む気配が無いので、場所を変える作戦に出たのだ。

これは思った通り、良い気分転換になり、
成功といえたのだが、
今度はどう単語を繋げていいのか苦戦している。


「・・・あとで、聞こう。」



分からない所は日本語でまとめて、
ぱたりと本や資料たちを閉ざし、諦めて机に伏せた。


レゴラスには未だ、自分が異界の者だと告げてない。

でも、勉強を教えてもらう時も、母国語のメモ書きを隣で書いていたし、
文字を書けない事や子供でも知っているはず歴史を知らない所からして、

『普通の人とは違う』という事は、なんとなく察していると思う。



「あたし、何がしたいんだろう。」



ふいに出るのはため息と、もやもやした悩み。


大体、初めから帰りたいなら、
文字なんて読めなくてもいいのだ。


最近はレゴラスから神話や歴史まで学ぶ始末で、完全に個人授業に発展している。


それが楽しいと思っている事は分かるのに、
帰ることに対して、
自分がどう思っているかが分からない。


帰りたい気持ちは強くて、
確かにそれを望んでいるはずなのに…。



上を見上げると空の青さは、故郷とは変わらなかった。



「あっおいなぁ〜・・・」



青空を仰いで、呟く。
太陽がひどく眩しくて、手をかざした。


そういえば、トリップしたあの日もこんな青空だったっけ。


何が重なるわけでもないけど、故郷がふいに恋しくなった。






11 puppylove -恋心-
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