螺旋短編
□Green
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風が吹く
温かくて穏やかな風
でも少し強めの風
その瞬間、彼は髪を押さえた。
鮮やかな淡いグリーンが私の視界に入って、驚いた彼の表情がよぎった。
「すごい風だったね・・」
わたしは髪を押さえるのも忘れて、笑うと彼も同じ笑みを返した。
「そやな、名無しさんの髪もぼさぼさや。」
彼の掌がゆっくりと頭上にのった。
風で吹かれるだけで簡単にクセがつく彼女の髪を手ぐしで梳く。
それが妙にくすぐったくて笑みをこぼれた。
最後に乱れた一房を直した彼は、
先程眺めていた空をもういちど見上げた。
わたしも同じように、蒼い空を見上げる。
風はいつの間にかふわふわと漂うそよ風にかわっている。
二人は広い緑の芝生にチェック柄のピクニックシートを広げ、そこに足を放り出している。
傍らには、名無しさんの手づくりお弁当が包んだナフキンの中でお昼の時間まで、待ちぼうけしている。
まばゆい太陽の暖かい光がすっぽりと覆い、それが少しまぶしくてわたしは目を細めた。
再び強い風が吹いて、二人の間を通り抜けた。
その時、じんわりとした温かさを手の甲に感じ、彼のほうを振り向いた。
手には火澄のそれが重ねられている。
風は止んだのに乱れた髪を直すことも忘れて、無邪気に笑う彼の手をぎゅっと握りしめる。
Green
(まだ訪れたばかりの春の足音に耳を傾けながら)
メルマガより
火澄と春のピクニック編