螺旋短編

□春だね、という声が
1ページ/1ページ




男の人なのに整いすぎた綺麗な顔立ちとか
手入れをしているかのようなサラサラとした銀髪とか

あの人はなんにも思ってないようだけど、その全てに私は何時間も魅入ってしまえるから不思議だ。


細くて長い私よりすこし大きい手のひら
薄紅色の薄くやわらかい唇
黒の服から覗く白い肌

そのひとつひとつが何故かとっても素敵な宝物のように見えた。




――イギリス某所

まだ肌寒い季節、グレーの上着を羽織った私はガレージの椅子に座ってすやすやと寝ている彼の姿を発見した。

それからずっと彼の寝顔を見つめて30分、冒頭にいたる。

隣に座れば気づくだろうと思ったものの、彼は身じろぎをするだけで瞼は開かなかった。

起こしてしまうのはかわいそうだし、彼のせっかくの寝顔も堪能していたい。
それなのに、何故かかまいたくなってしまう。

冷血な色なのに切なげで吸い込まれそうなあの蒼い瞳が見たいなんて思う私は不謹慎だ。

だらだらだらと頭の中で考えたまま、
いつの間にか時間はどんどん過ぎていった。


瞼に目をやると意外に睫毛が長いことに気づいた。

新しく発見する事実がどんなに小さいことでも、新鮮に思えるのはきっと大好きなアイズだからだろう。


触れたい


その想いが頭中を支配すれば、行為をとめることはゼロに等しい。
息をひそめてゆっくりと頬に手を伸ばした。

日差しが明るくて彼の白い肌をいっそう優美に写しあげる。
指先に彼の肌が触れる、その手をそっと下に流す、

彼はふたたび身じろいで、そのまま私の肩に顔を落としてきた。

起こしたかなと横目で見やるが、彼は春の陽だまりの中眠り続けている。

肩にかかる彼の重みを少し重いなと考えながらも笑っている自分がいた。
寝息をたてる愛しい人の身体をそっと自分の膝に下ろす。


それと同時に感じる違和感。

気がつけば、彼の大きな手のひらが自分の頬を覆っていた。

「名無しさん。」

硝子玉のように光る青の双ぼうが私を見つめる。

「アイズ・・」

彼の名を呼ぶとめったに見ることのできない微笑が返事の代わりに降ってくる。

「おはよう」と一言いえば、彼は身体を起こし流暢な英語の挨拶とともに、
私におはようのキスをした。








て、
だね、という声が

(もうすぐ傍まで来てるんだね)
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ