螺旋短編

□聖夜の誓い
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ニュースではクリスマス寒波だと騒いでいる。


世間は、雪が降らないとホワイトクリスマスじゃないと言い、
吹雪のようになれば寒すぎると言う。

コタツでぬくぬくとテレビを傍観しながら、
都合が良いなぁと名無しさんは思った。


ケータイの画面を見つめながら、彼を思い出す。


今日はクリスマスだからと、
彼の病室に出向き、私が作ったケーキを一緒に食べた。
その後は静かにお互いの手をとり、握り合った。


その熱は温かくて、
まだその感覚はこの掌にあるのに、
背を丸めたいこの寒さはまるでそれを奪いとっていくようだ。

ニュースは明るい話題へと変わっていったけど、見る気にもなれず重い腰を上げる。

家族に一言二言会話を交わし、部屋へ向った。

部屋の中はすっかり冷え切っている。

エアコンのスイッチを入れてから、
冷たい手をすり合わせ、電話をかけた。



プルルルル…



『名無しさん、どうした?』


「歩…」


彼の名前を呼ぶと、
嬉しい気持ちと、悲しい気持ちと
よく分からないものが混ざり合って困惑する。


『忘れ物でもしたのか?』


「ううん、してないよ。」


何を話したらいいか分からない。
だって、話すことが無い。


「声が聞きたかったの。」


そう、それだけだったから。


『そうか。』


短い彼の声。優しい彼の言葉。


「ね。クリスマスだね。」

『ああ、さっき会った時も聞いたぞ。』

「うん。」


話が途切れ、沈黙が漂う。
それを破ったのは彼のほうだった。


『雪。』

「ん?」

『今雪降ってる、そっちも降ってるか?』


閉めたカーテンを開けると、
ちらちらと白いものが降っているのが見えた。


「うん、降ってる。
ホワイトクリスマスだね。」

『ああ、そうだな。』

「ねぇ、来年はツリー観に行きたいね。」

『そうだな。病院からの許可が下りたらだけど。』


笑って言う、彼。
だから私も笑って答える。


「うん、下りたらいいね。」


『でもその前に、ひとまず来年になったら、
俺は名無しさんと旅行のひとつでも行きたい。』


「うん、私も。」


そんなの期待するだけ無駄でも、
だだの妄想にすぎず現実にならなくても、
二人で話しているこの時が楽しかった。


ねぇ、歩。


私と貴方はいつまでこうしていられるかな?


来年もそのまた来年も、

貴方と同じ時間を過ごせますか?



「歩。」


『ん?』


「大好きだよ。」


でももし、
貴方がこの瞬間居なくなっても、

私にとって最愛の人であることには変わりません。


『急にどうした?』


「言いたくなっただけ。」


『そうか。』



いつかこの繋がりが消えても、
私と貴方が離れ離れになっても、
ずっと傍にいるよ、心は離れないから。



『名無しさん。』


「なあに?」


『俺も名無しさんが好きだよ。』



雪はしんしんを降り積もる。

冬が来て、年を迎えて、来年が来て、

貴方と新しい年を迎えて…。


そうやって、
人生を終えるまで、ずっと居られたらいられたら、何だって良い。



今日がクリスマスだろうと、
明日がその最後の時だろうと。




聖夜の誓い


(私はずっと貴方と共に生きるよ。)
 

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