螺旋短編
□キミという光
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ゆるやかな丘を通り抜けて、静かな風が緑地を揺らす。
語りかけるのは、昔の友。
語りかけている先は、愛する人の大切な人。
「カノン・ヒルベルト…お疲れ様。」
私は改めて感謝の気持ちと共に、花束を置いた。
アイズ・ラザフォード。
彼と初めて出会った時、私は名もない一般人で、歌手を目指していた。
惹かれていくにつれて、彼という人なりを知った。
コンサートやメディアで演出される華やかな印象はただ見た目だけを追っているものだけど、
彼の本来の姿はどことなく孤独で、
冷たいように見えてほのかな優しさを兼ね備えている人だった。
私は彼と傍にいるなかで、
ブレードチルドレンという重荷、人を簡単に信じることの出来ない深い悲しみが彼の内側にある事を知った。
それを理解しようと思っても、
経験したことのないものはやはり分からない。
それでも傍にいることを決断し続けてきた。
彼の抱えているものは、ピアノにも表れていて、仲間を思う祈りの気持ち、
暗い闇の中でも消えない光がその旋律を繊細で消えそうで、でも神秘的なものへと作り出していた。
私はそのピアノも好きだったけれど、
彼がもっと心から笑える未来がくることを望んでいたのだ。
カノン・ヒルベルト。
その人がという人がアイズにとって、どれだけ大切だったかというのは理解していた。
一度だけ会った事があるけれど、
二人の間柄を言葉で表す事は到底できなかった。
揺るぐ事のない親愛であり、家族愛にも兄弟愛のようにも見えるけれど、それよりももっと深い絆でつながれていた。
アイズにとって、無くてはならない存在であることは、一目で理解できたし、
そんな人が彼の傍にいることが私はとても嬉しかったのである。