螺旋短編
□ロンリーな人生に
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嗚咽が漏れる。
悲しみは更なる悲しみを呼ぶ為にあるのかもしれない。
始めは些細なことだったのに、考えが深まって、
もうどうしようもなく、生きていけないと思った。
何故、よく分からない。
自分が何をしていいのか。
自分がどうしていいのか。
何が間違ってて、あっているのか。
世の中のそんな簡単な常識さえも、真っ白な頭には響いてこなくて、正常な判断ができない。
どこをどう考えても、今は自分を嫌悪する理由にしかならなくて、
思考回路がパニック状態に達していると、一瞬冷静になれた気がした。
それでも、泪をせき止めることはできず、
息をしていることさえ、ここに居ることさえ、不安で苦しくて、たまらない。
ああ、これを止める術が欲しいと無造作に転がった携帯を見つめた。
ゆっくりと床をはいずって手を伸ばして、そこに自分の居場所を探した。
プルルルルル・・
プツリ、とそれが切れて、つながった。
彼が海外に行って数ヶ月、
未だ出したはずの手紙の返信は無い。
「・・・名無しさんか?」
しばらくの沈黙の後、響いたのは綺麗な発音の自分の名前。
「・・・アイズ?」
私は縋るように彼の名を呼ぶ。
それを振り払われないこと願って。
貴方が居る、この瞬間だけはどんなことがあっても、この世界にいてよかったと実感する。
それだけ貴方という存在は大きくて、
ほかには代替できない、私の世界に必要不可欠なのよ。
だって、こんな馬鹿馬鹿しくて、愚かな人々に包まれた世界でもこんなに美しいと、生きてたいと、望むのは貴方がいるから。
ねぇ、大丈夫だと云って。
それだけでいいよ。
「私ね、今すごく貴方に会いたいの。」
どうか我侭なんて、いわないから、
この寂しい世界に一人で生きることになっても、
貴方だけは私を見捨てたりしないで欲しい。
「いつでも来ればいい。
…それとも会いにいってやろうか?」
ややあってそう帰ってきた返答。
その言葉通り、自宅を飛び出すと、
電信棒に寄りかかる見知った人物を目にした。
「アイズっ!!」
すぐさま駆けつけて、その胸に飛び込むと、
彼はぎゅっと、力強く抱きしめてくれた。
その間も手にしていたのは、たった今、届いたばかりの手紙。
差出人は、アイズ・ラザフォードと綺麗なアルファベットで記されている。
着くのが、遅すぎる。
本人のほうが早いではないか。
それにしたって、
帰国した事も、早く知らせてくれればいいのに。
文句も言いたい気持ちも、どこかに飛んでしまう。
彼が優しく抱きしめるから。
「…会いたかった。」
愛しい人のそんな言葉を、
耳元で聞いてしまえば、今は、涙と嬉しさしかこみ上げてこない。
それでも心配したんだよと素直にこぼすと、
彼は悪かったと少し申し訳なさそうに、苦笑していた。
やさしく頬や髪を撫でられる、何かを確かめるかのように…。
「…おかえりなさいっ。」
言えば、返ってくるはずだ。
他の誰も知らない穏やかな微笑で、「ただいま」という最高の言葉が。
寒い夜は、いつだって私を孤独にする。
だけど冷えた心はもう無いんだ。
貴方に出会ってから、私の人生が始まった。
ロンリー、ロンリー
(貴方がいるから、生きていける。)