螺旋短編

□kiss
1ページ/1ページ


帰り道、いつもとおなじように帰宅する。

わたしの隣にはいつものように浅月香介が並んでいて、
唯一違うといえば、彼への本命チョコレートが鞄の中に詰め込まれていることだ。
彼とは、友達以上恋人未満の関係に近いんだろう。


「オイ、アイツにチョコやったのかよ。」


「・・はあ!?」

香ちゃんが言ってるアイツってだれなんだ?

と考えたけど(男子の中で)チョコレートをあげたのは一人しかいなかった。


「だから奴にチョコあげたのかって聞いてんだよ。」

彼はまた問いかける。

何に不満があるというのだ。
わたしだってあげたくてあげたんじゃない。

あまりにしつこかったから、義理チョコをあげた。

それだけなのに。


「あげたよ。」

「お前、アイツはないだろ。
いくらなんでも彼氏が出来ないからってよう。」


誰のせいだと思ってるの?
そう思った所で、彼に罪はないのは分かっていたけれど、
何年間も思い続けてたその気持ちがつい表にでてしまったのだ。

(香ちゃんが好きだから、なんて・・・
思ってもないんだろうなー)


「勘違いしないで。
わたしは作らないだけよ。」

「はっ、どうだか。
その色気じゃ一生無理だろうな」


バッコンッッ・・・!!


そんなケンカみたいなのは普段のお決まりだけど
今日だけは辛かった。

鞄で殴りたかったが、
鞄の中に入れた本命ちょこを、
魔球の早さで投げつけてやったのだ。


「いってぇ!」

(そりゃそうだ。)


「香ちゃんは何にも分かってない!」

叫ぶと涙がブワァと一気に溢れ出て、止まらなくなる。

香ちゃんを見ると
普段とは違うわたしの反応にかなり動揺してて、
面白かった。


「・・・分かるわけねぇだろ。」

涙がとまらないわたしの目の前に来て、
彼はハンカチを差し出した。

ええい。こうなったら、
腹いせに鼻かんでやる。(やめなさい)


「言わなきゃ分かんねぇよ・・・」

彼は自嘲的な笑みをしてから、
わたしを抱きしめた。


「香ちゃん・・・」

「俺はお前が好きだ。
誰にも渡したくねぇ。」


なんだ、わたしも何にも分かってなかったんだね。


「そっか・・・・・・うん。分かった。」

温かい感触がとても心地よくて安心感を誘った。


「って、それだけかよ・・・」

あまりにあっさりした返答にがっくりとうなだれる香介。
手が離れると、下に落ちているチョコレートの箱を
彼は気付いて拾い、差し出した。


「それ香ちゃんにあげる。」

彼は一瞬期待したのだと思う。
顔を赤らめ視線をそらしたのだから。

(かわいい・・・)

そしてつかさずこう言った。

「義理チョコだけど。」

「義理かよ!?」


(からかうと面白いんだけど)
ノリにのったわたしはちょっとしたドッキリをすることにした。


「・・・実はさ、これっきりで、わたし。
香ちゃんと友達やめようと思う。」

「・・・なんで・・・」

動揺する香ちゃん。
馬鹿だなぁ、そんなの簡単じゃない。

グイ

彼を引き寄せて、
頬に軽いリップ音つきのキスした。


「・・・・・・」

香ちゃんは目を点にして、停止してしまった。

お、面白い。


「どういうことだよ!」

「友達はキスしないよね。」

わたしが意味深な笑みを浮かべると、
彼はやっとその意味をとらえたらしい。


友達ならばキスはしない。じゃあキスするのは・・・


「・・・待てよ。」

前を歩いていたわたしを今度は彼が引き寄せて・・・
でも頬じゃなかった。

(く、唇ぅぅ!?)


「これでお互い様だな。」
真っ赤になって何も言えなくなるわたしに向かって
彼は不適な笑みをした。


友達以上恋人未満?
それでいてそれとはどこか異なる私たちの関係。


iss。


(ソレ義理チョコじゃない可能性もないこともないよ)

(恋人に義理チョコは有り得ないだろ)

(香ちゃんなんて恋人じゃないもん!パシリだもん!)

(お前は何気にひどいな。)




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ