命のナマエ
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森の王国に滞在して数日後。
エルフの暮らしや此処での生活は何となしに分かってきたものの、
あたしが此処でする事はあまりなかった。
皆、昼間は馬を引き連れてオーク狩りに出かけていることが多いし、
夜はスランドゥイル様主催の宴会で盛り上がっているか、森や自然を詠った歌に耽っている。
これといって、人間のあたしが入り込めるものは無い。
せっかく暇しているのだからと思って、
厨房に顔を出してみたり、女中に声を掛けたが
簡単な雑用もさせてはもらえない。
(毎回「ゆっくりしてくださいね」とか、
「お客様ですから」とか、やんわり断られてしまうのだ。)
こうなってはゆっくりする以外、他なかった。
あくびをかみ締めながら、むくりと身体を起こす。
ピチピチと小鳥のさえずりが聞こえてくる、心地よい朝だった。
あたしはあらかじめ用意されていたエルフの服に着替えて、身なりを整える。
そろそろレゴラスが部屋を訪ね、朝食に誘ってくるだろう。
そう思った矢先、コンコンと丁寧なノックが聞こえた。
「どうぞ。」
あたしは梳いていた櫛をテーブルに置いた後、ゆっくりとドアを開けた。
「おはよう、ハレン。」
そこには当然、いつものようにさわやかな微笑を浮かべた彼がそこに佇んでいた。
09 affection -慈愛-