命のナマエ

□(3)
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――約2年後…


柔らかい風の感覚が肌を掠める。
あたしはゆっくりと瞼をあげた。

黒い雲も荒れた土地も消えていて、
代わりに視界に入るのは灰色の衣と、きれいな星空。
空は白い雲が薄くかかっている。



「ん…」


後頭部に痛みが走り、思わず声を上げた。



「目を覚ましたな、気分はどうじゃ?」


何かに乗っているのだろうか、空中に浮いていて、下には小さな町並みが見える。

目に飛び込んできたのは老人。
その姿が何故かあの人と重なって、思い出してしまった。

あの頃の暗闇の面影なんて此処にはひとつもないはずなのに、
あたしはどうして思い出してしまったのだろう。


全身がかたかたかた、と不自然に震えだす。



(コワイ)


言いようのない恐怖が包み込み、
瞳にはなにも映りはしなくなった。


逃げなきゃ、此処から逃げないとっ!



「動くでないっ!落ちてしまう。」



老人の手があたしの両肩を掴む。
それでも、もがいて離そうとする。



「逃げなきゃっ・・・じゃないと・・」



ああ、怖い。

怖い。


息ができない、苦しい


次第に呼吸は荒くなり、頭の中に妙な映像が浮かんだ。



アカイ、何か。



「…いやっ!!離してっ!!」



此処から早く逃げなきゃ。


帰る場所なんてもう見当たらないけど。


あたしは殺されてしまうから。


見捨てられてしまうから。


何処でもいい、とにかく逃げなくちゃいけないの。



「落ち着くのじゃっ…!!」



老人の声が聞こえる。

それが誰なのか、その記憶がなんなのか理解する前に、あたしは意識を放した。





03 years
-年月-
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