Magic Spells
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『ずっと空気みたいに生きてきた。』
私の人生を表すのならそんな感じ。
仲の良い友人がいても、心の奥はどこか冷めていて、何をしていても心が晴れる事は無い。
私の中にはいつも私を客観的に見ようとする自分がいて、
何処でもどんな場合でも自分をセーブ(制御)する。
私は私なりに大人になろうとしてやってきたことだった。
よく言えば…聞き分けの良い子供。
賢く頭を使ってどんな時にどういう行動をとればいいかという模範的回答が頭を占めていて、
それが処世術として役立つ事を知ってからは、どんどんただ目の前の選択に対して客観的になり、より利を得るように分析をするような生き方になってしまった。
そんな事を繰り返してきたせいか…今はただ感情が薄く、空っぽ感が拭えない。
自分を持っていないような気がしてならないのだ。
それでも小さい頃は、夢で満ち溢れていたはず。
絵本が大好きでしかたなかった頃を思い出せば、私はひどく我侭でもっと自由だったように思う。
縛るものが何も無かったからだろうか?
仕事が忙しい両親に対しては、遠慮がちだった私だが、
祖母の存在は大きく、いつも親代わりになっていた。
優しい祖母にいつも甘えていたと思う。
毎日飽きもせず、絵本を読んでとせがむ私に、
嫌な顔ひとつせず沢山の物語を聞かせてくれた。
「みりあちゃんは本当に絵本が好きね。」
「うん。だって絵がとっても綺麗なんだもの。あと、お話も素敵っ!」
「みりあのおじいちゃんはね、絵描きさんだったんだよ。」
それを聞いた私は感動して、目をキラキラさせた。
「…絵を描くのっ?」
「それはもう、綺麗な絵をね。
動物の絵や植物の絵も大好きだったんだよ。」
「すごいねっ!私もお絵かき大好きっ。」
私は絵本を広げながら、やっぱり大人になったら本を書いたり、絵を書く人になりたいな〜なんてちょっぴり思ってしまった。
「みりあちゃんはお話も上手だし、将来は絵本を描く人になるかい?」
お母さんは反対するかな?
でもおばあちゃんが言っているなら、きっとできるよね!
子供ながらに期待を大きく膨らませて、
大きな声で返事をしたのだった。
「うん!大きくなったら絵本を描くのっ!」
今更ながら…なんて無邪気な願いなんだろうと思う。
幼い頃の私が知ったら、今の私なんてガッカリするに違いない。
夢なんて忘れてしまった。
現実に染まりすぎてしまった私。
こんな自分なんて、好きでもなんでもない。
祖母の部屋には今も沢山の絵本がしまわれていた。
…思い出を懐かしむかのように大切に。