螺旋短編

□キミという光
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貴方がいなくなった日を恨んだ事もある。

アイズに対しても、ブレードチルドレンという戒めに対しても、

苦しくて、もがいてももがいても振り払えないくらいに…

彼の抱えているものが重くて、理解できない事が辛くて、逃げ出したくなった事もある。


でもね。


希望は自分達で作るものだったんだね。



それを知るのに、だいぶ時間がかかってしまったけれど…




「…私が今、こんなに幸せなのも、貴方がいるからだよ。

また必ず、来るね。
この子の顔を見せに来るから。

あの人の幸せを、いつまででも見守っていて…お願い。」


祈りを込めて、石碑を前にする。


今は穏やかな気持ちでいっぱいだ。
こんな日が来ることを…一体誰か予測できただろう。


「此処にいたか…。」


少し遅れてアイズが到着する。
ちらりと腕時計を確認して、溜息をつく。


「…予想以上に、遅くなってしまったな。
来る途中に記者に囲まれた。

フッ、カノンは元気そうだろう?」


愛する人の、心からの微笑み。


「そうね、もっと近くで貴方の顔が見たいみたい。」


「ああ、でも紹介するべき家族が他にいる。」


私の隣に腰を下ろし、そっと花束を添えるアイズ。

そして目配せして、私の手にそっと掌を重ねあわせた。


「カノン、いい知らせだ。
…とうとう俺も父親になるらしい。」


喜びの報告。
天国に行った彼は、今頃それを聞いているだろうか。

きっと嬉しそうに微笑んでいることだろう。


愛する人の“兄”の笑顔をそっと思い出し、
心地よい風を感じながら、ゆっくり自分のお腹にもう一方の手を当てた。


…慈しむように、愛おしむように。



カノン、貴方はこの結末を知っていたのでしょうか…。
ううん、知らなかったかもしれない。


でも未来は切り開かれた…大切な人の命を紡ぐために。


新しい命はきっと新しい未来を運んでくれる。



「…行こう。」


アイズが立ち上がり、私に手を差し出す。

その顔は晴れやかで幸せそのものだ。


私は手を取り、立ち上がる。
今は当たり前になりつつある…彼の隣。


たくさんの人が繋いでくれた希望が、
また大きな希望を生んでくれるのだとしたら、

希望は希望を増やし、
新しい命となって、その人の幸せとなって、世の中と世界を満たすのだろう。


全てのブレードチルドレンが救われないかもしれない。

世界の誰かが報われないのと同じで、どこかで妥協しなければならないのだとしても。


私たちは信じ続ける事を止めたりはしない。



人が絶望を持って生き続けるのには、限界がある。

希望は儚かなくとも…確実に、
何かを生み出し育んでいくことを私たちはとうに知っている。



「面倒だが、ナルミアユムにも報告しないとな。

…きっとこの子は、俺にとっても、世界にとっても“希望”になる。


眩い希望の“光”だ。」



いつもより饒舌に、そして微笑みを濃くするアイズ。

彼も鳴海歩に報告できる事を、心から待ち望んでいるようだ。



「はい、きっと・・・。」



この言葉の続きは、もう紡がなくても良さそうだ。


未来は必ず幸せを刻んでくれるだろう。

一秒ずつ、希望の元で生きる私たちに、光を与え続けてくれるだろう。




幸せです。貴方といる事が。


そしてこれからも、貴方と築く未来が・・・


どうか幸せであり続けますように。
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