螺旋短編

□キミという光
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そして、その後のアイズは少し変化した。

色んな場所に積極的に出向くようになったのだ。
聞いた話によると、毎回、仲間うちとは異なるブレードチルドレンと会っているようだ。


その行動が何を意味するのか、私は分からなかったけれど、
彼なりに未来を紡ごうとする意志が見られたのである。


今までの彼だったら消極的であり、行わなかったであろう行動だったように私は思う。

カノンが残した希望は、
確かにアイズの中に受け継がれたように思えた。


一年ほどそれを続けたある日、
アイズは再び、ピアニストとして活躍する道を選んだのである。



「…俺はピアニストとして、世界中に音楽を届けようと思う。」


そんな言葉を彼から聞いたときは、少しだけ耳を疑ったものだ。

彼には音楽を続けるための理由など、ほとんど持ち合わせてなかったから。

もともと個人的な感情も薄い彼だったが、
時がたつにつれて、少しずつ感情や会話も豊かになってきている。

前より表情に出すようになったり、
ピアノの曲調もわずかだが明るいものに変化しているように思えた。

言葉で自分の気持ちを述べることも多くなり、
神秘さが際立っていた頃より、人間味を増しているのようだった。


私は彼の思いを温かい気持ちで受け入れると同時に、
日本を離れるという切ない気持ちも湧き上がる。


それでも私は、彼と生きる道を選びたかった。



「だったら私は、貴方の隣で歌う。
もしそれが出来ないなら、せめてどんな場所であって付いて行く。

付いていきたいの。

貴方の隣が…私のありたい場所だから。」



歌手として活躍し始めていた私は、彼の隣で生きる道を選んだ。

そこに悔いはない。
他のどんなことを選ぶより、私は…この人と生きる世界が、私のあるべき生き方だったから。


彼は…私の全てなんだ。


アイズは少し困ったように微笑んで、手を取ってくれた。

私がそう答えることなんて、初めからも分かっていたのかもしれない。
「共に行こう」と彼は言った。そして、そのまま日本を連れ立った。



世界中を回りながら、アイズから時折、鳴海歩という人物の話を聞いた。

その人物が、ブレードチルドレンを救うキー(鍵)だったらしい。

日本に来日する際、一度、
挨拶をすることになったけれど、特に話をするようなことはなかった。

私はただアイズの傍にいて、二人の会話を聞いているだけ。
それだけの事だったけれど、彼の人となりは見ているだけでも十分伝わってきた。


病室にいて不自由な手でピアノに明け暮れているその様子は、
まるでアイズに重なるように優しい人だという印象を与えた。


帰り際に、
背を向けたまま「幸せになれよ。」と手を振っていたのを思い出すと、少しだけ胸が痛む。


あの人は幸せなのだろうか…。


それでも、きっと皆、幸せになろうと必死に頑張っている。

それぞれが自分の道で生きようとしている姿に押され、
私はあの時、ぎゅっとアイズの手を握ったのだ。


後になって、
鳴海歩がカノンが残した希望を形にしてくれたのだとアイズは教えてくれた。


それ以来、鳴海歩という人物には会っていない。



そう、あれからもう3年の月日が経ってしまった。

あっという間でもあり、長い月日を重ねてきた…そんな感覚もする。



私は再び、日本というこの地に立って、

アイズと出会った日々から今までの事を振り返る。
カノンと出会った時、カノンの死により思いで現実を知った日。

アイズと共に日本を出てから、
二人で未来を紡ぐのは、大変でもあったけれど楽しい事でもあった。


今は、どれ一つとっても大切な思い出だという事が出来る。
起きた全ての出来事にやっと素直な心で…向き合えた。
今この瞬間の…幸せを深くかみ締める。



「ちゃんと希望はあったよ、カノン。」



全てを経験して、乗り越えてきた今だからこそ分かる幸せ。


希望はちゃんとここにあった。


それは、一日一日積み上げていかないと分からないものだったけれど、

私たちにとっても、大きな一歩であり、
他の皆にとっても、希望になることだろう。



「…ありがとう、カノン。

私たちを幸せにしてくれて、ありがとう…。」
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