螺旋短編

□キミという光
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「…名無しさん。
俺はカノンの事をずっと考えていた。
あいつが何故死を選んだのかを。その理由を。

俺はあいつを誇りに思っている。
兄のように大切に思う気持ちも今も変わらない。

カノンが居ない今、確かにこの胸が空虚な感覚になることはある。

だが、俺は絶望していない。

カノンはきっと希望を残して死を選んだんだ。」


アイズは強いまなざしで話してくれた。
その言葉に揺らぎも不安もなかった。

ただ彼は何かを確信している。

ちゃんとカノンの死を受け入れて、前を向いている。


その状況についていけなかったのは、結局私のほうなのだ。

死を受け入れるという行為は、私にはまだ難しすぎた。

簡単に割り切れる感情や事じゃない。
アイズとカノンの事を考えただけでも…苦しくなってしまう。



「ごめんなさい、私は弱い…。

アイズの方が辛いのに。

私がしっかりしなきゃいけないのに…こんな事言える資格だって…ないのに…。」


どんどん自己嫌悪に陥りそうになる思考をとめてくれたのはアイズだ。


「いいや、俺が言えない事を名無しさんが言ってくれた。

ずっと心配かけていたのも知っていた。
でも、今の俺はそこまで気にかける余裕がない。

悪いとは思っている。
だが、名無しさんを弱いとは思わない。


代わりに…傍に居てくれる事を心強く思う。」



精一杯のアイズの言葉。

私はやっと罪の意識から開放されて、少しだけ胸をなでおろした。



「…聞いてくれるか?
カノンとの思い出を。

名無しさんに話したいんだ。」



久しぶりに見るアイズの微笑み。

少し悲しみに揺れている瞳とぎこちない表情だけど、
それが彼の優しさと強さだと受け止めてあげたい。



「うん。」


私も涙を拭って、微笑んだ。

きっとぎこちない笑顔で。

それでもいい、進んでいこう。



はじめは…希望の意味が分からなくて、不安も多かった。

でも、アイズが信じ続けると決めたから、私も信じ続けることが出来たんだ。
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