小さな本棚3
□補佐官の苦労
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「…………は?」
顔に巻いていた包帯がはらりと落ちて首にかかる。
それほど、復讐者の長から言われた言葉は衝撃的だった。
復讐者独特の雰囲気を、周りの下っぱよりも一際強く放つ長の腕の中には、
ここの場所にも長にも似つかわしくない赤ん坊がいた。
すぅ…すぅ…、と規則正しい呼吸音から寝ていることが分かるが……
長の補佐という位置にいるグワストはそれどころじゃなかった。
「ちょ、いつの間に赤ん坊作ってんですか主!
急に大事な話があるとかで神妙な顔するから何事かと思えば………『赤子ができたからよろしく』!?意味分かりませんよ!」
「ふむ…。ただ…そう。首が座ったからやっと伝えられると思って伝えたのだが……」
「その前にあんた既婚者だったんですか!?」
「結婚してなければ子供なんぞ作らぬ。補佐官であるお前に一番に知らせたかったのだ」
「あぁ……まぁそれは嬉しいとは思いますけど…でも急すぎて何がなんだか……。
……跡継ぎにするためですか?」
そうグワストが問えば、長はうぅむ…、と押し黙った。
それから重々しく口を開く。
「跡継ぎにしようと思っておる。将来はこの私の子がお前たちを束ねる長になる。
私も……長い時を長として過ごしてきて、そろそろ疲れたのだ。これは潮時だろうと思ってな……」
「………」
「この子が私の跡を継いだら、私は消える。
だからグワスト。その時は、お前がこの子の面倒を見てやってくれないか?」
復讐者は、やめたくてもやめれるものではない。
人ならざる者が、人の社会に行くことができるはずはなく、ただ消えるしか道はないのだ。
長の言葉に、グワストはしばらく黙っていたが、しばらくして小さく頷いた。
「分かりました。その時は俺が、長の子供の補佐官を勤めましょう」
「頼むぞグワスト。最後の時まで見てやってくれ」
「はい。……それで、母親は…?」
「この子の母親は、出産と同時に死んだ。やれやれ……、赤子とは可愛いがやはり疲れてしまうな」
「………だから最近姿が見えなかったんですね」
「育児のためだ。これからは堂々と育児をするから心配はいらぬ」
「それが心配なんですよ!
職場に…しかもこんな所に赤ん坊を連れてくるとか……仕方ないかもしれませんけど、長の仕事は大丈夫なんですか?」
「私の仕事?グワスト、お前は何のための補佐官だと思っている」
「少なくとも育児休暇をとる長の代わりではないと思ってます」
「そうだとも。補佐官は長を補佐するものだ」
「……長の育児の補佐をしろと?」
「遊び相手なら構わぬだろう?」
「……はぁ…、分かりましたよ。なら遊び相手にならさせていただきます」
「恩に着るぞグワスト。これからもよろしく頼む」
「……もちろんですよ。主」
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