「じ、甚さん…」
「ん?どうした。」
「さ、寒い…」

私のつぶやきに甚さんは読んでいたレスキュー雑誌から顔をあげて、そうか?と聞き返す。
そうだよ。と持っていたホッカイロ普通のタイプを揉みながら答える。

甚さんと私、お互いの非番が運良く重なったのは良いが、こういう日に限ってなぜかエアコンが壊れたりするのは何故なのか。
そして、さらに運悪い事にご近所の電化製品店はお休み。

ああ、やっぱりこの間通販番組でやっていたストーブを買っておくべきだったと、今更になって後悔している。
寒がりな上に冷え性気味の私は、楽な部屋着の上に、カーディガンとその上に厚手のパーカーを着て、足元は靴下とスリッパの完全武装なのに

「寒すぎる…。」
寒すぎてさっきから鼻水が止まらない。
「鼻をかんだらどうだ?」
と、甚さんは『柔らかいティッシュ』を売りにしている箱ティッシュを渡してくれた。
ありがと、と礼を言って鼻をかむ。

「そんなに寒いか?」
とジャージとスウェットのみの甚さんが聞いてくる。
「うん。大変だよ、凍っちゃうよ、氷点下だよ!」
甚さんは寒くないんだろうか。
やっぱり鍛え方が違うからかなあ。

などとぼんやりと考えていると甚さんはまた、そうか。とだけ呟いて、後ろから私を抱きしめて、私の目の前に持ってきたレスキュー雑誌を、
先ほどと変わらず読み始めた。
「これなら少しはマシだろう」
「…うん。」
背中から伝わる甚さんの体温が温かくて、それ以上にうれしくて、私は少しだけニヤけながら滅多に読むことのないレスキュー雑誌の文字を目で追ってみた。


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