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□優しさは悲しみを置き去りにする
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「・・・あんた、バカでしょ。」
パチン、と包帯を切るハサミの音が、オレをバカにしているように聞こえた。


優しさは悲しみを置き去りにする



「バカで悪かったなあぁ・・・」
白いシーツが敷かれたベッドの上で、銀髪の男、スクアーロは自嘲するように言う。
「別にあんたの頭のこと言ってんじゃないわよ。
こんな酷くなるまで、よく放置してたわね。」
ちょうどいい長さへとカットした包帯を持って、
淡い金色の波打つ髪の女性―――ローニカはスクアーロへと近づき、
その腕に包帯を手際よく巻きつけていく。
ベッドの間際には血に染められた黒い服が
乱暴に脱ぎ捨てられており、
ローニカはそれに鋭い視線をやった。
「確かに、あんたはマフィア学校時代でも
ケガの手当てはろくすっぽしないわ放置して悪化させるわ、
あんたが剣士として機能してきたこと自体奇跡だわ。
それに、ボンゴレにケンカ売るなんて。」
ローニカの言葉にスクアーロは眉を顰めた。
「う゛お゛お゛ぃ、ケンカじゃねぇ。」
「はいはい、あんたのザンザスさんをボスにするためのね。
で、見事に負けてザンザスさんは凍り付け、
氷を斬ろうとしてボンゴレ側の警護に見つかって切り刻まれた、
ていうオチだけど。」
「・・・うるせぇ、」
「その義手も、直してやるから提出しなさい。
3日以内には直してやるわ。」
はぁ、と溜め息をついてローニカは接合部を緩めて義手を外した。
「・・・よくわかったな、」
「当たり前じゃない。裏ボンゴレのあたしをなめんじゃないわよ。」
「裏ボンゴレ」とは、ただのジョークではない。
イタリア最強といわれるボンゴレに並びながらも、
裏の世界でも滅多に顔を出さない「システィオーネファミリー」の
ボスであるローニカは不敵に笑った。
「機械の調整なんかお手の物よ、
まあ、ケガしたあんたを治すのも毎回わたしの役目だけど。」
「・・・学生時代からのな。」
「しかもなにこれ。刀身削ぎ堕ちてるじゃない。これ、ゴミ?」
「うるせぇ!」「直してやるから黙りなさいこのヘタレ!」
2人の叫び声が飛び交い、
ローニカの拳がスクアーロの頭に直撃した。
「がっ・・・」
その痛さ、
しかも怪我人であるスクアーロに余計なダメージを与えないよう
細心の注意を払って加減された拳に、
スクアーロは痛みに頭を抱えた。
「ほら御覧なさい。とりあえず、ケガが治るまでここにいれば?
ボンゴレの追っ手も、追いかけはしないでしょうに。」
はー、このバカタレが、
とぼやきながらローニカは消毒液を取り出す。
「・・・悪いな、迷惑ばっかりよぉ。」
「今更のことじゃないわよ、ほんとに学生時代が懐かしいわぁ。
ケガしたまんまうろつくあんたに
わたしが消毒液のビン投げつけて、」
「怪我人は大人しく保健室行きやがれバカタレ、だったな。」
苦々しい表情でスクアーロは答える。
「そうそう、それ。
それから、ケガする度にアンタが来たのよねぇ、ちょこまかと。
確かトドメが「テーブルマナー教えろ」だっけなぁ。
ザンザスさんのパーティだったわね、あれ。」
「1日でオレに叩き込みやがったのはどこのドイツだ。」
「私ベルリン違うからね、で、ひまだからその顔拝みにいったのよ。
人間の目じゃないわ、まあいいけど。」
「・・・一言ですませやがったなぁ、てめぇ。」
「だらだらと長くまとめるのも失敬よ。
・・・まあ、あれからなんであんなヤツと親しく慣れたのかしら。」
刀と義手を箱に放り込み、ローニカはイスに座る。
「スクアーロ、あんたどうするの?
わたしがどんなに色気仕掛けしても揺らがないあんたのことだもの、待ち続けるんでしょ?」
「(何か思い出したなあぁ)・・・決まってらぁ、当然だ。」
「システィオーネの名に懸けて、協力はするわよ。」
「・・・なんでそんなにしてくれんだぁ、お前。」
「はぁ?当然でしょ。」
ローニカは青い瞳を細めて、笑った。

「あんたみたいな剣士、協力しない方が罰当たるわよ。」

「・・・そうかぁ、」
スクアーロは何も聞かず、その身を横たえた。
「当分寝てなさい。栄養のあるもんでも用意しておくわ。」
「・・・悪ィなぁ。」
「なにいってんの、人の初恋振ったんだから、
ちゃんとザンザスさんとくっつきなさいよ。」
「おいてめぇ、それどういうことだあぁ!」
「やぁね、事実よ事実。」
放り込んだ箱を手にしてローニカは部屋を出る。
「じゃ、おやすみなさいね。」

ぱたん、とドアは静かに閉められた。





終わり。


・・・なにこれ。

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