novel

□木蓮
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ザァザァと、家屋を隠すように
植えられた木々が風に揺らされ音を立てる

その木々の間を抜けて来たのは
長い髪をなびかせて歩く彼


「待ってたぜ……」


桂を迎えるのは左目を包帯に隠した男

彼の姿を確認した桂は口元を緩めた


「高杉……」

愛しそうに、彼の名を呼ぶ


「……入れよ」

彼の口元も歪んだ。




いつもの部屋に桂を引き入れ
激しい口づけを幾度も繰り返す

抑えきれずに桂の口から零れ出る濡れた声


そんな彼から唇を離すと
その長い髪に指先を絡め
これでもかと言うくらい強く引っ張る


片眼を瞑り 痛みに表情を歪める桂

しかし やめろとは言わない


ククッと笑うとそのまま桂の頭を掴み
畳に思い切り叩き付ける

そして白い頚に片手を回すと
ギリギリと強く締め上げて行く
その指がめり込む程に


窒息してしまいそうな苦しみに
朦朧として行く意識
その瞳からは一筋の涙が光った


高杉は漏れ出る笑みを抑える事が出来ない


「ククク…、痛ぇか…ヅラぁ」


彼にわざわざ尋ねなくとも答えは判っている


肯定も否定も出来ず
桂はただ虚ろな瞳を高杉へと向ける

酸素を欲しがり桂の口はぱくぱくと動く



――痛ぇか。苦しいか。
 クク…もっと痛がれ、もっと苦しめ…

てめぇの苦しむカオは最高なんだよ……


「くっくっく」
心底愉快そうな高杉の、
壊れた機巧人形の様な笑い声


頚を解放してやると
桂は激しく咳き込んだ

その姿に益々歪む高杉の表情


また髪の毛を何房か絡め取って引っ張り
身体を強引に起き上がらせる


その瞳からはいつも満ちている
強い意志を宿す光が消えかけていて

その喉からは苦しそうに繰り返す
呼吸が聞こえていた


高杉はその姿を楽しむと
桂の頚元に顔を埋め細い頚に舌先を這わせ
湿り始めた頃…其処に牙を立てた

滲み出す赤
頚の白と青に新たな色が加わる

外国風味に例えれば
まさにそれはトリコロールというものだった


高杉の口の中に広がる血の味
けれど不思議な事に鉄の味などでは無くて
甘い甘い味がした気がした

甘い血を高杉が飲み込み
桂の血は高杉の中に溶け込んだ


彼に刻まれた自分の証


桂は流血の痛みに息を乱しながらも
縋る様に高杉の着物を掴む


「……晋助ぇ……」


其れに答えて高杉も
彼の細い身体を抱き締めて


その朱い唇に優しく口づけを落とす


先程迄の乱暴極まりない
行為を強いていた男と同一とは思えないほど
その口づけは優しくて

桂は彼を赦してしまう


いつも、そうだ

殺されるかと思うほど乱暴に弄ばれても
その痛みを緩和するかの様に
優しい口づけをされる

そのせいで、何もかも赦して良いと
錯覚させられてしまう


――お前は、ずるい…


でもそんな彼が

たまらなく愛しい



何をされてもおとなしく自分を受け入れる彼
例えどんなに乱暴な事であっても

その身に刻まれてゆくのは、自分の刻印


それらを捉えた高杉の眼は細まった


――嗚呼、愛しい

てめぇは何故 

此処まで俺を溺れさせる…




「――愛してるぜ…小太郎」


その言葉に 嬉しそうに小さく微笑む桂


「――俺もだ、……晋助…」


紫がかった髪に指を通し
彼へと身を委ねる


その中で、桂は 馬鹿……と心密かに呟いた

そんなに強く跡を付けなくとも
お前は十分俺の中に深く
刻み込まれているのに…


でも……それで良い


この消えない痛みが、
お前が現だという証明だから……



二人の長い指先が、絡み合った
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