novel

□再会
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「…ククク ヅラぁ」

頭上からその声が降ってきたとき
幻聴かと本気で思った

それ程迄に久しく
そして今一番自分の求めていたものだったから


「相変わらず幕吏から逃げ回っているよーだな」


その低音が身体へと心地好く浸透してゆく


「…ヅラじゃない、桂だ。
…何で貴様が此処にいる?
幕府の追跡を逃れて京に身を潜めていると聞いたが」


けれど 心とは裏腹に
つい 素っ気ない態度を取ってしまう


俺も相変わらずだ。

桂は内心ふっと笑った





高杉の話を聞いた限りでは
彼はまた何かを企んでいる様だ

それを温かい眼で見てやる気にはなれないが

止める必要も自分に有りはしないだろう。

勝手にそんな結論を出し
桂は漸く顔を上げ彼の事を見詰めた


すると彼も此方を見下ろしていて

二人の視線が絡み合った


煙管の煙を吐き出す彼の口が三日月型に変形したので
桂も少しだけ口許を緩めた


見下ろされたままでは気分が悪い
桂は右手に持った鈴棒を杖代わりにゆっくりと立ち上がった

そうすれば今度は桂が僅かに高杉を見下ろす形になる


「……何をする気か知らぬが…」
何も言わず煙管を蒸かす彼に諭す様に言う
「あまり幕府や真選組の目に付くことはせぬ方が身のためだぞ」


その言葉に高杉はククッと笑みを漏らした
「…何だァ、心配してくれてんのか?」

はっとして桂は思わずそっぽを向いた
「……別に…っ」


編み笠から覗くその頬が仄かに紅くなっている事を悟り
高杉は眼を細めた

「ククク…素直じゃねーなぁ」
「うるさい…」

薄ら笑う高杉とは逆方向に顔を背け
桂はそのまますたすたと歩き出した


しゃらん、しゃらんと往来に鈴の音が響く



「…オイ…ヅラぁ」
ゆっくりとその後をついてくる彼の声だけが桂の鼓膜に響いていく
その周りには何十もの人々の声が飛び交っていると言うのに

「…ヅラじゃない…桂だ」
「てめぇん家まで案内しろよ」
「……は?」

桂は思わず足を止め高杉の方を振り返った


「……家というか、隠れ家だが…」
「同じだろうが」


高杉の赤い唇から白い歯が覗く


何時の間にやら桂のすぐ目の前まで来ていた
高杉の指が、桂の長い髪の一房に絡まる
そして高杉はその髪を口許に寄せると、低く囁いた
「…イイだろ?」


上目遣いで見詰めてくるその視線に、いつも負けてしまう
情けないとは判っていながら


髪を掴むその手を退かすと
桂は美しく流し目をして見せ、小さく呟いた


「……こっちだ」


高杉の片眼が、益々細まった
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