novel

□木蓮
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一陣の風が吹き
花びらが舞ってゆく 銀の髪を揺らしてゆく


淡い黄色の花が散る様は
まるで雪の如き美しさ


季節感を狂わせる



銀髪の彼は何をするでも無く
ただ自分の視界を次から次へと過ぎてゆく
花びら達をぼんやりとその朱い眼で
追っていた



不意に花びら以外の色が彼の目に入った

静かになびく漆黒と濃紺


「ヅラぁ?」


その声に気付いた彼が長い髪を揺らして
こちらを振り向く


「ヅラじゃない…桂だ」


銀色の彼を包み込む優しい笑顔


「こんな処で何をしているのだ、銀時?」


彼の黒髪に淡い黄色が良く栄える
その美しさが眩しくて
銀時は思わず眼を細めた


「別にィ…特に何も。
お前こそ…どっか行ってたの?」
「……あぁ、ちょっとな」


桂の声が少し濁った気がしたけれど
「ふーん…」
銀時は何も聞かなかった


「木蓮か…綺麗だな」

雪みたいに降り注ぐ
薄黄色の花びらを見詰め桂は呟いた


お前の方が綺麗だよ。
そんなありがちな言葉を銀時は飲み込んだ
「…そうだな」


二人の間に流れる静かな時間


ふと目に入った桂の白い頚に
青色の跡を銀時は見付けた


……痣?


「……ヅラ、首……」
「ん?」
「痣みてーなのあるけど」
「あぁ……」
桂は眼を伏せ、自然な動作でその跡に触れる


「…どうしたんだよ?」


探る様な朱眼を、
真っ直ぐな眼差しで跳ね返す

「別に、何でもない……気にするな、銀時」

銀時に柔らかい笑顔を向けてみせる桂


何でも無い訳ねーだろうが。


ふっと銀時の脳裏に過ぎるものがあったが
その笑顔に気圧されて
探りを入れるのは止める事にした


「……そっか」


銀時は、眼を伏せた。


花びらが落ちてゆく音が、彼の耳を掠めた
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