novel

□やさしいキス
1ページ/1ページ



「大丈夫か、高杉!?」
彼の左手から盛大に流れる朱い鮮血を目にした瞬間、桂はすぐさま高杉に駆け寄っていた。
「うっせーよ。これぐらいで騒ぐんじゃねぇ」
「これぐらいではなかろう!」
桂は本当に心配そうな顔で、高杉の手を取り傷口をまじまじと見つめる。
「……とにかく早く手当をせねば!」
桂は一秒すら惜しむように、高杉の右手を引いて治療部屋へと向かい始めた。
「…オイ、んな騒ぐほどじゃねーっつの」
「うるさい!怪我人は大人しくしていろっ!!」
ったく、こいつぁ騒ぎ過ぎだ、たかがこれくらいの怪我で。
そう呆れながらも、高杉は桂が此処まで親身になって自分を心配してくれることが、少しだけ嬉しかった。


「よかった。血はハデに出ていたが、傷自体は浅いものだったな」
巻き終えた包帯の端と端をきゅっと結びながら、桂は安堵の声を零した。
「だから騒ぐんじゃねぇつったろーが…」
高杉は溜息をつく。
「……だが、よかった…。大した怪我でなくて…」
桂は本当に安心した様子で、今しがた包帯を巻き終えたばかりの左手を、唇に寄せた。
「………」
そんな彼に、高杉の頬は思わず緩んだ。
「……心配性だな、てめぇは」
「……悪いか?」
「…別に」
高杉の左手が、桂の唇をなぞる。包帯のざらざらした感触に、桂は思わず眼を細めた。
「高杉……」
「……何だよ」
「…痛いであろう?」
「……これくらい…」
どうってことねぇよ、と言おうとして、高杉は言葉を切った。
口元が、さりげなく弧を描く。
「…じゃあ、キスしてくれよ」
「……は?」
「お前がキスすりゃあ、痛みも和らぐ」
あっさり言ってのける高杉に、桂は呆れたように笑った。
「……バカな事を」
そんな事で痛みが緩和されるのなら、世話がない。
だが、桂はその手を押しのけることはせず、優しく握り直して、一番傷の深かった場所に、そっと唇を落とした。
厚く巻かれた包帯の上からだから、その感触が高杉に伝わったかは、わからないが。
「ヅラ」
「……ヅラじゃない、桂だ」
高杉が桂の目を覗き込むように近づいてきて、桂は思わず目を伏せた。
「……こっちにも、してくれよ」
自分の唇を指差しながら、高杉はそう言った。
「………バカ者」
ほのかに頬を染めた桂の顔が、ゆっくり近づいてくる。
高杉は目を閉じた。
桂も目を閉じる。
二人の唇が、ゆっくりと、重なる。


幾度も幾度も、優しく吸い付く舌先に、桂の身体は甘く痺れる。
呼吸がうまく出来ず、息が苦しい。それでも、この甘い味にもっと溶かされていたい。
高杉の着物を必死に握り締める。官能に飲み込まれてしまわないように。
二人分の吐息と絡まった熱い蜜を桂がゆっくり飲み込むと、高杉は唇を離した。
離れてしまった熱に、桂は名残惜しさを感じ、痺れたままの意識で高杉を見つめ続けた。
「んなエロい顔すんなよ…」
高杉に優しく囁かれた言葉に、桂は真っ赤になった。
「なぁ、ヅラ」
「…、…なんだ」
乱れた息を整えるのに必死で、あだ名を訂正する余裕などなかった。
「また、キスしてくれよな」
かぁぁ、と音が聞こえてきそうなほどはっきりと、桂の頬が紅く染まった。
「……き、貴様は、なぜ、そう恥ずかしい事をぬけぬけと…っ」
「俺も、キスしてやる」
「……は…?」
「お前がケガしたら…次は俺がお前にキスしてやるよ」
いいだろ?と小さく笑う高杉に、桂も思わず顔をほころばせた。
「……よく効きそうだ」
「決まりだな」
二人で小さく笑い合い、再び口づけを交わした。
月明かりの映し出す二つの影が、深く重なり合う。
甘い情事が、始まる。


その夜、行為中、桂は幾度となく高杉の左手の指先を、優しく噛んでいたらしい…。



それからというもの――
高杉がケガをした時には桂が、桂がケガをした時には高杉が、相手の傷口に、そっとキスをするようになったのだった。
――二人だけの、秘密の治療法。





fin.



…*…*…*…*…

そのあと、患部へのキスから唇へのキスになって、結局高杉が桂さん押し倒すという。
治療とか言いながら結局は毎日えっちしてるだけですこいつら。
ただのバカップル…?
ただベタベタしてるだけの甘甘?なお話でした。
高桂にもこんな時代があっていいと思うのです。

…2012.3.11.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ