復活

□この気持ちの名は。(ヒバツナ)
1ページ/1ページ

好き――――だなんて感情。 僕は知らない。







この気持ちの名は




「綱吉」

移動教室の途中、ふいに呼び止められた。
その瞬間に背筋がぞくっと震える。
固まってしまった体をなんとか動かしてゆっくり振り返った。

「ひっ・・・雲雀・・さん」

今、目線の先にいる人物は並盛中風紀委員長こと雲雀恭弥。
並盛一の最強の不良でもある彼。皆から恐れられている人物で、もちろんオレも恐れている人物でもある。

「おいで」

言われるがままに重たい足を動かし、彼に歩み寄った。
いつもこうだ。会う度に名前を呼ばれ、どこかへ連れて行かれる。今回もそうじゃないかな?

「あの・・・オレ・・これから授業が・・・」
「君の場合、受けても無くても同じでしょ」
「・・・・・・」

(確かにそうですけど・・・)

そう口には出さず、心の中で呟いた。

「まぁ、僕が教えてあげてもいいけど」

そう切れ長い細い目を更に細めて、少し口角をクイと上げ、オレを見下ろす。
いつも仏頂面で、表情なんてそうそう伺えないけれど、オレの前ではいつもと少し違った表情を見せることが多い。
元々顔立ちがいいから、普通だったら、女性ならイチコロだろう。
でも、怖いという感情が強いせいで、そんなもの感じることが出来ないのだが・・・。
暫くじっとしていると、右腕をぐいと引っ張られた。
転びそうになりながらも、必死に彼のスピードに合わせる。
そのまま風紀委員が占領している・・と言うよりは、雲雀さんが占領している、応接室へ連れて行かれた。
そして案の定、勉強を教えてもらうことになった。
雲雀さんもオレの家庭教師ヒットマン、リボーンと同じく・・否、それ以上スパルタなんだろうと覚悟を決めていたが、
以外にも優しく教えてくれた。予想外だ。
大体教えてもらって、休憩しているとふと、いつも抱えている疑問が頭の中を過ぎる。

「雲雀さんは、群れるのって・・・」
「嫌いだよ」
「じゃぁ、今・・群れて・・」
「群れてない」

(へ?どう見てもこれ群れてますよね?オレ、ココにいますから!?)

口に出すのは怖すぎて、心の中でツッコミを入れた。
全くもって、この人の思考は理解できない。

「僕はただ、所有してるだけ」

そうスラリと答えたかと思うと、またしても腕をぐいっと引き寄せられ、彼の胸の中にすっぽりハマッてしまった。

(・・・あれ?)

全く意味が分からない。どうしていつもオレみたいな駄目なヤツが呼ばれ、連れて行かれ、今こうしているのか。
全く持って、意図が見えない。何がしたいんだろう・・・。
離れようと彼の胸を両手でおもいっきり押してみるけど、適うわけなくて、余計に力を込められてしまった。

(どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。)

この言葉が頭の中をぐるぐる回り復唱される。
今この状態を簡単に説明すると、肉食動物に草食動物が捕まった状態。うん。そうだ。つまりいつ食べられ・・
殺されてもおかしくない状態なんだ。・・殺され・・・オレ・・殺されっ・・・!?

「あっ、あの・・雲雀・・さん?」
「何?」

懸命に口にした言葉がスラリと応えられてしまった。
顔も胸に押し当てられてるから、彼の表情は分からない。だけど、口調が柔らかったことから、怒ってはなさそうだ。
チラリと時計を見ると、授業終了のチャイムが鳴る5分前。
そろそろ離してもらわないと、本当に命が危ない。
もう行かなくちゃと口から出す直前、上半身だけ開放された。

(今の内に逃げなくちゃ・・)

そう足を伸ばし、地面に足を付けると同時に首筋に今まで感じたことのない感覚を感じ、腰がすくんだ。

(な、なななな舐められ・・た?!)

サァッと音が立ったんじゃないかと思うほど、一気に血の気が引いてゆく。
そして体が硬直する。

(・・・食べられる・・・!!)

心の底から悲鳴が聞こえた・・が、体は固まったままで動かない。

「逃げないの?」

そう耳元で聞き慣れた声がする。すると一気に視界がぼやけた。

「・・・ふぅん。そうしたいけどできない・・のか」

低い声が耳に届く。そしてその直後にさっき舐められた場所と同じところにチクリと痛みがはしった。

「・・ひっ!」

痛ッ・・!思わず小さく声を上げ、飛び上がってしまった。
痛みがはしった場所がひどく熱を持っている。・・血・・出ちゃったかも・・。

(このまま本当に食べられちゃったら・・オレ・・・)

もう後ろ向きの考えしか浮かばない。もう咬み殺される。・・本当に咬み殺される。
すると、頬を何かが伝って顎から落ちた。
目に溜まった涙が落ちたらしい。あぁ。目も熱くなってる・・・。
もう意識はどこかへ飛んでいた。つまりは現実逃避状態。
すると今度は目元に柔らかいものが押し当てられて・・右目、左目・・それから頬の涙の跡。
ペロリとまた舐め上げてしまった。

(怖い。怖い。怖い。怖い。怖い・・!!)

ギュッと思いっきり目を瞑って、下唇を噛んだ。
体は相変わらず、固まったままで小刻みに震えている。
不意に雲雀さんのシャツを握った手も同じく震えていて、いくら離そうと力を入れても、握ったまま、シャツを離してくれない。
それから暫く静かな時間が過ぎた。
全く動く気配が無いのに不思議に思って、恐る恐る目を開けてみた。
見ると、目の前には綺麗に整った顔があって、
きりりとした細い目はオレの目をじっと見ていた。漆黒の瞳にオレが
映る。

・・・・・ドキッ。

いつものビクッではなく、ドキッとはっきりオレの胸が鳴った。
一向に逸らす気配のない漆黒の瞳。・・目が逸らせない。
今までに、こんなに彼を見つめた事があっただろうか。
いつも、怖くて視界に入っただけで、直ぐに目を逸らした。
目が合ったら終わり。咬み殺されてしまうと分かっていたから、直ぐに視線を逸らして、逃げていた。皆も同じことをしていただろう。
でも今はその全く正反対の事をオレはやっている。
今回はいつもと違う。逸らそうと思っていながらも心のどこかで逸らせない自分がいる。
だって・・全てを吸い込んでいきそうな、深い深い色をしているから・・・。

キーン コーン カーン コーン。

「!!」

授業終了のお馴染みの音でハッと我に返る。呼吸をするのさえ忘れてた。
すると軽々しく持ち上げられて、机の上にあった教科書とノート、筆記用具を手渡され出口へと引っ張られた。
一歩外に出されたかと思うと「またね」と耳元で囁かれ、ドアが閉まる。
パタンと、オレしかいない廊下に鳴り響いた。
先程から色々な出来事に頭が付いていっていない。
付いて行けないまま、事がどんどん過ぎて行って・・。
まさに真っ白状態だ。
不思議と足だけが自然と動いて、意識が戻ってから自分のクラスの教室に向かっていることが分かって、少しホッとした。
それからオレに気付いて、獄寺くんと山本がオレに駆け寄って来て、何か話しかけてきた。
返事はしたけれど、一体何を話されて、自分がどう返事をしたのかは覚えていない。
ただ、帰り際に彼に囁かれた方の耳がひどく熱を帯たままだった。





+++後書きと言う名の言い訳+++

これは人生初のコピー本に載せたものれす(恥。

ただこれだけが言いたい。
雲雀は一体何がしたいんだ(笑。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ