ショート
□拍手
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*島迅*
「あ、」
と思った時には、もう12時が過ぎていた。
丁度受験勉強も一息ついて、休憩しようと思った時だ。
「新年になっちまったなー」
元々、年明けとかそんなに関心はないんだけど。
彼女がいた時はネタにさせてもらえていいなー的な事を思えただけだ。
(今はどうもねー)
お付き合いしちゃってる子が、そんなイベントより勉強を大事にしろって子だし。
(しかも野球部で初詣行くって言ってたし)
その時の迅の嬉しそうな顔ったら。
残念だなーと思う事すら罪悪感を覚える程だ。
(まぁ、この前の模試ヤバかったし。勉強させてもらう分には何にも弊害ないんだけどね。…うん。負け惜しみじゃなく。)
口元が引くつくのを気にしないようにして、ぐ、と背筋を伸ばす。
同じ態勢だったから、あちこちがぎしぎしと痛い。
と、丁度その時、ケータイが鳴った。
指定着信音。この曲は…
「迅だっ」
ガバッと身を乗り出して、危うく椅子から落ちそうになった。
うわぁ、俺ってげんきん。
めちゃめちゃテンション上がってるよ。
「もしもし!?」
『あ、慎吾さん。明けましておめでとうございます』
「あっおめでとう!」
『今、大丈夫ですか?勉強の邪魔とか…』
「ないない!丁度休憩してたとこだから。
何?何かあった?」
『あ、いえ…。』
言い淀む迅に、首を傾げる。
すると暫くして、躊躇いがちに迅が口を開いた。
『本当は、迷惑かもしれないんで、メールにしようかとも思ったんですけど…』
「うん」
『…やっぱり、声聞きたくて』
電話口で、きっと赤くなってる迅を想像して、自然俺の顔も緩む。
『俺、今年明けましておめでとうございますって言ったの慎吾さんが初めてッスよ』
「うん。俺も今年初めて話をするのが迅だ」
俺はちらりと部屋の角にかけているものを見る。
そしてしっかりと口端を上げた。
「…迅」
『はい?』
「迅はそうじゃないかもしれないけど、」
『はい』
「俺の今年初めて会う人は迅になって」
俺はハンガーにかけておいたコートを羽織って部屋を出た。
「今から会いに行くから」
電話の向こうで迅が驚いた声を上げてたけど、
今は勉強なんかしてる場合じゃねぇや
20080102~20080115