福音

□行かなくちゃ!
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「もう行かなくちゃ。」

君がベッドから身体を起こして呟く。
どうして僕が半分ベッドを貸した相手はいつも早急に去ろうとするのだろう。

「どうして行くのさ。」

僕はやや不機嫌に問う。

「どうして、って…時間だもの。」

軽く微笑みながら君が言う。
しかしその表情も今の僕には腹立たしい。

「べつにいいじゃないか、行かなきゃ死んじゃうわけでもないだろ?」

「行ったら死ぬわけでもないわ。」

「…分かんないよ?」

「それなら此処にいたって同じよね?」

君は笑顔を崩さない。
いや、むしろ楽しそうだ。
僕は気分悪いのに。

「…君は僕のことが嫌いなんだ。」

一瞬だけ君の瞳が大きく開いたかのように見えたが、気のせいだったかも知れない。
すぐにさっきの笑顔で君が言う。

「なぜ?」

「だって僕を一人ぼっちにするんだろ?僕はこんなに君と一緒にいたいのに。」

彼女の頬がほんのりと紅くなる。
してやった気分だ。

「私だって一緒にいたいわ。」

「じゃあそうすればいい。」

「でも…行かなくちゃ。」

先程と同じセリフを繰り返す。

「…もういいよ。勝手に行けばいい。」

「……。」

「全く、リリンはおかしな生き物だね。僕には理解し難いよ。」

「リリンじゃないわ、人間よ。」

「どっちもおんなじだろ」

「違うわ。…あなたはおかしな人ね。」

「使徒だよ。」

「どっちも同じよ。」

僕は本格的にむくれてしまった。
君に背を向け、ベッドの中に潜り込む。
いくら君が話し掛けてきても…「怒ったの?」「ねぇ。」「ごめんね?」…返事をしない。
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