福音
□夏という(序)
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「分かった!17番目の使徒、タブリス!」
「タブリス…?」
カヲル君は首をひねる。
「そう!こないだ授業中に教科書の先の方読んでたら載ってたの!」
ふんふん、と興味深そうに頷く彼に気を良くし、続ける。
「タブリスが司るのは自由意思。でもカヲル君は意思通りにいかないんだから、不自由意思だね!カヲル君はタブリスの逆だ!」
大きな声で言うと、カヲル君は丸い目をして小さな声で言う。
「タブリスの、逆…」
そして大きく頷いた。
「うん、何だか分からないけれど悪くない気分だね。」
そう言ってカヲル君は白い歯を見せて笑った。
彼のそんな風な笑顔は、見たことが無いと思った。
昨日も一昨日もその前もずっとずっと気の遠くなる程前も一度も。
だから例えこの先の未来が軋んだ音を立てようが、或いは福音無しで祝福に包まれようが、大した問題では無いと、思う。
思うけれど、思う傍から福音だなんて響きは消えていくのだ。
『夏という
(不)自由意思』
まだまだ日は沈む気配が無い。
そうだ、夏なのだから。
2人で第9を口ずさみながら、何処までもかえろう。
(次頁、あとがき)