福音

□夏という(序)
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「好きなの?」

帰り道で私がそう訊くと、カヲル君は鼻歌を止めて、キョトンとした顔で此方を見た。
今日は其れ程暑くない。
夏のキラキラした日差しが彼の髪の銀色に綺麗だ。

「好き?何のことだい?」
「第9。今の鼻歌、第9でしょ?」

ああ、鼻歌ね、と頷いた後に、彼はウーンと唸る。

「好きというか…勝手に鼻歌しちゃってたんだ。僕の意思とは関係無く。」
「ふうん、意思と関係無い…意思通りにいかない…意思…」
「?」

何度も同じ単語を繰り返す私に、カヲル君は疑問の眼差しを投げている。
私はと言えば、何かが引っ掛かっていて、彼に構っていられない。

「何だっけ、最近、意思って言葉を何処かで…」
「意思なんて珍しい単語じゃないだろ?」
「うん、そうだけど…」

そうだけど、こんなに気になるのだ。
何かインパクトのある事柄だったに違いない。
腕組みしたまま歩く私の隣を、カヲル君はポケットに手を突っ込み歩く。
暫くして、私はハッと思い付いた。
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