捧げ物

□所有印
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「十四郎くゥ〜ん!」

「き、気持ち悪りィんだよッ!」

「あがっ!ちょ、コレ、酷くない?」

会った途端がばっと抱き着いてくるという銀時の奇襲を避けるのに慣れ、おまけのクリーンヒットまでもを打ち込める様になった、十月の事。




もう銀時と付き合いだして一年程過ぎているのを知った。
最初は不安定だった二人の気持ちも、一年経つ事で安定している様に見える。
しかし気持ちは安定していたって、土方は慣れない事があった。




……それは、銀時への態度。それから「銀時」という呼び方だ。

銀時への態度、というのは、土方が銀時にべたべたされる時の事だ。
土方は銀時と肌が触れるだけでぴりぴりと痺れを感じるし、目を合わせるのにもすぐ顔がほてる。銀時は人目を憚らずくっついてくる。その時の態度をどうすればいいかという事。人前では恥ずかしいが、一緒にくっついていたいという気持ちも強い。元々人に触られるのを嫌う土方は慣れる様子が無かった。

「銀時」という呼び方は言葉の通りで、銀時の事をそう呼ぶ事だ。いままで「万事屋」「坂田」と言っていたので、慣れないし恥ずかしい。…自分の事をたやすく「十四郎」と呼べる銀時の気がしれない。(その事を銀時に聞いた所、「前から心の中ではそう呼んでたもん、勿論自家発電の時も」という答えが帰ってきた。全くこれじゃあセクハラだ、という事で一発殴っておいた。)だがその反面、銀時は自分の物だと感じられるし、やっぱり特別に感じる。

その間を土方はさ迷っているのである。

しかしやはり恥ずかしさはあるので、心の中では呼ぶ事にしていた。



でも。

やっぱり銀時の隣に居るのに、慣れたのかもしれない。

まだ、慣れない事だって多くあるが。








そんな中で銀時から誘われた。

「10日、空けといてね。」

一回だけならいつも通りだと思えるが、それを何度も念入りに誘うのである。
はっきり言って、不自然だ。

俺は言われる度に聞いておくと言っているのだが、案外しつこい。

ずっと躊躇していると、銀時は俺の目を覗き込みそっと頬を撫でてきた。

俺の心臓が加速していく。爆破、しそうなくらいに。




「10月10日は必ずだよ?」

「ぜ、絶対とは言え…ねェ。」

「今回だけは絶対でいいじゃん。お願い。」

「む……りだ。」

「ケチ。」

「……あぁ、俺はケチだが文句あるか?」

「…ごめん。十四郎。拗ねるなよ〜。10日は一緒に居てェんだって。」

「絶…対は…む…りだ…っての」

「いいだろ?なァ、一日くらい。」

「ど、努力はしてみるから…」

「俺が欲しいのは『絶対』だって!」

「……あァ」

「絶対だぜ?」

「う、うん…………ッてオイ!手ェ離しやがれ!」

「誓いのチュー。」

「え、あ……んッ………」

『チュッ』

「ご馳走様ッと!忘れんなよ?俺はこの日、お前に会いたいんだからな?」

「う、ん……。」




白兎の様にピョコピョコと逃げて行った銀時が残したのは、頬と唇に広がる温かさで。
顔近かったし、抱きしめられたし、キスされたし、十四郎って呼ばれるし。

……惚れた弱みって野郎か?

赤く染まった顔をそっと手で包み込めば、温もりが感じられた。




つづくよ〜
 

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