小説
□博打
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船の操縦室からは大きな爆発音が響き、刹那、黒煙が上がった。舞った塵埃が視界を霞ませる。
刀を鞘に戻し一息吐けば、一体此処はどんな形だったか。原形なんて何処にも無い。
こんな風に過去の事柄も消せるなら、どれ程助かるか。
地球に居るであろう、忌ま忌ましい天然パーマとうざったい長髪が思い浮かんで失笑した。
「デカイ借りができちゃったね。仕方ない。アンタと殺り合うのはしばらく中止にしとくよ。」
船がパラパラと崩れていく中、歩いてきた少年は笑顔を浮かべている。
「それに…アンタと一緒に地獄廻りも楽しそうだし」
少年は朱色掛かった橙の髪を棚引かせ、にっこり笑った。
旋毛辺りで跳ねている髪も風に揺られている。
地獄という言葉に少し反感を覚えたが、黙っておこうか。
「フン」
「さて、手始めにどこからいこうか?」
少年は俺について来るらしい。
勝手な事をしない限り、歓迎してやろう。
しかし、疾風の様に俺の心中を掻き回す少年は直ぐに豪華な待遇を叩き割る。
「やっぱり侍の星?」
立場上、反論など出来やしない。
それでも心中には黒雲が陽を覆った。
嗚呼、こいつもあいつらを斬れというのか。
あいつらを棄てて、壊してと?
無理だ。あいつらは俺の事を斬ると言ったが、俺はそんな事出来やしない。
口にすれば殺らなくてはいけなくなるから、言わない。言えない。
思い出、と言える程大層な物じゃないが、それでも俺は弱いから、思い出じゃ頼りなくて生かしておかなくては生きられなくて。
あいつらが居ないと過去の自分すら消え去ってしまう。
「言い訳は要らないよ。」
戯言が散らかった俺の心中を覗いた少年は、やっぱり笑顔を絶やさない。
それくらい分かっていると答えたかったけれど、言えない口がもどかしい。
「………フン。」
それだけ言って、あの牢へと歩を進めた。
言い訳をしなくては本当の獣に成ってしまう気がしたから、これが甘えなのか、なんて愚問だと分かっているけれど。
もし、あの少年があっさりと妹を斬ったとして。
そうなった時、俺はあいつらを斬殺できるので在ろうか。
返って来ない答えは、博打にでも委ねて仕舞え。
身勝手にもそう考えた俺は「丁」と呟き、また歩きだした。