小説

□じゃんけん
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「ィよっしゃあ〜!」
「う………。」

坂田の明るい声と対照的に、土方は暗くがっかりとした声を出した。
全てはこの手が悪い…。
土方は自分の開いた手を恨めしそうに睨み、溜息を一つ、落とした。





じゃんけんを、した。

今月中の支配権を握るための。



物事の始まりは坂田の言葉に遡る。

「…じゃんけん、しねぇ?」
「いやだ。」
「え?即答!?銀さん悲しッ!」
「いきなり何を言い出すんだ、てめぇは。ホントに髪の毛だけじゃなくて頭もイかれてんな。」
「違いますぅ。銀さんのこの髪は人より少しくせっ毛なだけですぅ。チャームポイントなんですぅ。」
「その話し方、やめろ。うざい。」
「おま、うざいって!なんでもうざいって言葉で表そうとするなコノヤロー!」
「じゃ、死ね。」
「…泣いていい?」

話を聞けば、坂田は一ヶ月間勝った方は負けた方をこき使えるという特典付きのじゃんけんをしたいらしい。

「ハッ。アホらし。」
「え〜。面白いじゃん」
「馬鹿まるだしだな、万年天パ野郎が。」
「俺の硝子のハートが、ぐっさぐさだからねコレェ!」
「せいぜいほざいてろ。糖分過剰摂取依存症。」
「否定はしない!しかし酷いよ土方君、ウッウッ。」

坂田は、どうしてもやりたいらしい。
これだからマヨ中は、とか、畜生冷たい奴め、とか、散々に俺を罵ってから、あっと坂田は声を上げて、にやにやとした顔で俺に近づいてきた。


「…もっしかして、多串君、」

嫌らしい笑顔を浮かべて耳元で負けるのが怖いのォ、と囁かれたら、土方が乗るのも当たり前で。


「…やってやらァ。俺ごときに負けるなよ。」

「よ〜し!ではいざ尋常に!」



そしてこの結果である。



畜生、畜生。
パーなんて出してんじゃねぇよ、俺。
ここは男らしくグーを出せば良かったんだ。
つか何煽られて勝負しちまったんだ、馬鹿野郎。
気の迷いか?気の迷いなのか!?


なんて考えても後の祭り。

目の前で指が開かれている光景は、何一つ変わらなかった。

はぁ、と大きな溜息を吐いてから、購買の商品の名前を呟いてはうっとりと目を細める親友を見た。



………はぁ。



心の中でまた溜息をついてから、駆け寄って。




毎回この様な展開になりながらも、言う事を聞いてやる自分は優しいと思う。


坂田の幸せそうな笑顔を見れるなら、それはそれでいいかもしれないな。


なんて柄にも無く考えてから、坂田の手を引いて、購買に向かう。




手が熱っぽいのは、気のせいだろう。
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