小説

□曇天
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暗い空。
どんよりと雲がかかっている。
蒸し暑くて身体を扇いでも、送り込まれてくる風も蒸し暑く、嫌気が差す。
なくせに、雨は降っておらず、じめじめしているだけ。
という、最悪の天気だった。

真選組一番隊隊長、沖田総悟はいつも通り巡回という名の散歩を楽しんでいた訳だが、この天気によって機嫌が悪くなった。
歩いていると時々雲の切れ間から光が射し、それもうざったい。
耳の奥では黒板をひっかく音が絶えなく、なにもかもが嫌だと思った。

そんな事だから、いつもは見ただけで心が躍るチャイナドレスの少女が話しかけてきたって、機嫌が直る様子もなかった。

「おォ!サド王子!不機嫌そうな顔アルなァ〜。」

少女はにっこりと笑って、総悟の肩を叩く。

「そんな顔してたら、善良な市民達が怖がるばかりヨ。スマイル、ネ?」

うぜェ。

うぜェ、うぜェ、うぜェ、うぜェ、うぜェ…

何もかもがうぜェ。

今日、少女と居たら少女の事を傷つけるかもしれない。
その事だけは回避したい総悟は、出来るだけ優しい声で少女に話しかけた。

「旦那の所のガキじゃないですかィ。残念ながら俺は暇じゃねィんだ。
善良な市民を守るため、巡回してる訳なんで。今日は相手にできねィな。」

少女は口を尖らせたが、総悟のただならぬオーラを感じとると、何も言わずにきびすを返した。

彼女は帰るらしい。
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